弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年9月 9日

腐蝕の王国

著者:江上 剛、出版 銀行を舞台にした小説をこのところ何冊も読みました。この本も読み手をぐいぐい銀行の内幕に引っぱっていく力をもっています。さすがプロの筆力は違う、と唸りながら(妬みも感じながら)一気に読みすすめていきました。
 銀行内で順調に来た人間に対する嫉妬は並大抵ではない。一人落ちれば、一人上がるという社会だから。銀行は不祥事に備えて、警察官僚の退職者を顧問として雇っています。なにかのときに警察を抑えてもらうのです。警察は典型的なタテ社会だ。だから、元警視総監から依頼されて、断ることのできる地元署の署長など、いるわけがない。こう書かれています。きっと、そのとおりなんでしょう。
 不祥事のときの記者会見に、中途半端な知識でのぞむのは失敗のもと。記者会見はともかく時間が過ぎればいい。記者会見をやって頭を下げたことが重要なのだ。知らない、調査中だ。なんと言われようと、これで逃げ切る。記者会見の冒頭、8秒間、ゆっくり頭を下げる。声を出さずに、ゆっくり数を一、二、三、四・・・、八とかぞえるのだ。
 リーダーとは、人一倍欲のある人間だ。その欲を上手にコントロールできれば権力者になれる。しかし、欲を支配できなければ、滅びる。
 銀行は大蔵官僚の接待のためなら、予算の上限など気にせずにお金をつかう。一銀行で億単位だ。気をつかえばつかうほど、役人は喜び、便宜を図ってくれる。
 銀行の内側の雰囲気がよく出ている小説です。バブル時代に突進し、今では不良債権の処理に汲々としている様子がよく描かれています。そのあまりのおぞましさに、銀行なんかに勤めなくて良かった。そう思いながら、ほっとした思いで最終頁を閉じました。
社:小学館

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