弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年8月17日

女性のからだの不思議

著者:ナタリー・アンジェ、出版社:集英社
 女性に毎月ある生理(この本では月経)は何のためのものなのか。多くの哺乳類は子宮がそれほど華麗に血管で飾りたてられていないため、生理の出血はほとんどない。
 ある学者(ストラスマン)は、子宮を常に肥沃な状態に維持するよりも、生理があった方が安くつくからだとしている。生産のためのぜいたくな準備を、月のうちもっとも妊娠しそうな排卵時だけに限るのは筋が通っている。胚が到着しない子宮内膜とその生産物を維持するのは重荷なので、そっくり片づけてしまう。そして翌月、また一から始める。生理4回で6日分の食物に相当するエネルギーが節約できるという。
 生理で40リットルの血液と分泌物が排出される。著者はこの疑問に対する答えは一つとは限らないとしている。逃げているとも思われるが、なるほど、そうなのかなとも思う。
 子宮は製薬工場でもある。たとえば、ホルモンを分泌し、タンパク質と糖と脂肪をつくる。さらに、違法ドラッグの一種でもあるベータエンドルフィンやダイノルフィンも放出する。これは自然の鎮静薬で、科学的にはモルヒネやヘロインの親戚にあたる。また、マリファナに含まれる活性成分と同じ分子のアナンダミドもつくる。ところが、子宮が、このような鎮静薬や化学物質やホルモンの前駆体をつくって分泌する目的はほとんど分かっていない。だから、子宮全摘手術にはまだ疑問も大きい。
 初乳は、タンパク質と炭水化物そのほかの成分の混じった粘っこい液体をつくる。脂肪は含まれない。初乳の黄色はニンジンを黄色くする成分、ビタミンAとBをつくるのに必要なカロチノイドをたっぷり含んでいる。また、多量の白血球と抗体を含み、免疫系ができていない新生児を助ける。
 乳の成分は動物ごとにちがう。成長の速い動物はタンパク質をつくるアミノ酸の多い乳が必要。猫や犬など肉食動物はアミノ酸のせいで濃い。短期間に体に脂肪を蓄えなくてはならないゾウアザラシのような動物は高脂肪の乳をのむ。ゆっくり成長する動物の乳はアミノ酸の量が比較的少ない。人間の乳はアミノ酸含量がもっとも低く、ネズミの乳の12分の1。牛乳は母乳の4倍のタンパク質を含むので、加工せずに赤ん坊に与えてはいけない。新生児の腎臓はまだ高タンパク質を処理できないから。
 人間の乳はタンパク質が少なく、ラクトース(乳糖)が多い。人間の乳は粉末ジュースのように甘い。このラクトースはグルコースの2倍のカロリーを新生児に供給する。栄養素の吸収にも重要な役割を果たし、赤ん坊の胃がカルシウムや脂肪酸などを最大限に摂取できるようにする。
 乳が限りなく魅力的である理由のひとつは、いかに母親の栄養状態が悪くても、乳の成分をほとんど変動させないことにある。足りない成分は体内から調達する仕組みだ。人工乳に母乳の真似はできない。人間の乳は200以上もの成分を含んでいて、その多種多様な役割の全部はまだ解明されていない。たとえば、ラクトフェリンは母乳中にわずかしかない鉄分を生物として利用可能とし、鉄とともに病原菌が胃のなかに入らないように防ぐ。人工乳には含まれていない成分だ。
 乳房にがんができやすいのは、養うべき子があらわれるたびに、ふくらんだりしぼんだりを繰り返さなくてはいけないから。身体のほかの部分では、遺伝子が細胞の成長を抑制するが、乳房ではその抑制が強くないため、悪性腫瘍が足がかりをつくりやすい。
 人間の身体の基本は女性のからだです。そのからだの不思議をかいま見た思いです。

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