弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年7月25日

しのびよるネオ階級社会

著者:林 信吾、出版社:平凡社新書
 イギリスは、まさに階級社会である。医師や弁護士、大企業のエグゼクティブや成功した芸術家はアッパー・ミドルクラス。ロンドン・キャブ(タクシー)の運転手はロウアー・ミドルクラスで、2階建てバスの運転手はワーキングクラス。
 パブの内側は2つに仕切られ、入口も2つある。労働者階級向けのバーは立ち飲みだが、中産階級向けには大きめのソファーが置かれている。
 ブルーカラーの賃金は週給で、ホワイトカラーは月給であった。労働者階級はタブロイド版の大衆紙しか読まない。中産階級の言葉は標準語だが、労働者階級は、スラング(俗語)が多く、出身地の訛り丸出しで、これでも同じ英語かと疑問に思うほど違っている。しかし、階級が異なると、相互に会話する機会もほとんどないので、不都合は起きない。
 鉄の女とも呼ばれたサッチャー元首相の父親は靴職人の息子として生まれ、食料品店に就職し、商売で成功して市議会議員になった。つまり、ワーキングクラスからロウアー・ミドルクラスへ成り上がった。その娘(二女)サッチャーはオックスフォード大学を卒業しているが、苦心して上流階級の話し方を身につけた。
 イギリスにおける階級社会の問題とは、経済格差よりも、むしろ教育環境の格差なのだ。このような格差が何世代にもわたって固定化されてきた結果、労働者階級の子弟はどうせ自分たちは、ビジネス・エリートなんかなれないんだから、勉強してもはじまらないというすり込みをされている。向上心を捨てて、物質的には最低限の生活だろうが、気楽に生きた方がいいと割り切ってしまうと、苦労して勉強する必要も、あくせく働く必要もなくなる。
 イギリスの公立学校のほとんどは午前中で授業をやめてしまう。サッチャー元首相は小学校のときから秀才で、グラマー・スクール(公立の進学校)を首席で卒業した。しかし、オックスフォード大学には補欠合格だった。これは、非上流階級出身者に対するハードルがそれほど高いということを意味している。たとえば、入試において、面接や作文を重視している。そのとき、たとえば「外国に行ったことがありますか」と訊かれて、「ない」と答えると「視野が狭い」と評価され、低い点数しかつけられない。
 これまでの日本の教育システムは機会平等、結果不平等であった。しかし、これは、イギリスのように機会の平等すら階級社会よりはましなのではないか。職人の子どもは職人になればいいじゃないかと決めつけるような社会はもっと間違っている。
 以上は著者の考えです。イギリスと日本の違いを改めて知らされました。そして機会の平等を保持することはやはり大切だと思ったことでした。

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