弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年5月 6日

ドッグメン、第三軍犬小隊

著者:ウィリアム・W・パトニー、出版社:星雲社
 今や観光地として名高いグアム島を日本軍が占領していたことがありました。そこへ、1944年7月、アメリカ軍が反撃して進攻し、1ヶ月もたたぬうちに制圧しました。このとき、アメリカ軍の死傷者は7000人、日本軍は1万8500人が生命を落として、8000人が降伏せずにジャングルに身を潜めました。横井さんとか小野田さんとか日本軍の生き残りがジャングルに隠れていた、あのグアム島です。
 反撃するとき、アメリカ軍の海兵隊は720頭の犬を率いていました。第三軍犬小隊は110人の兵士がいて、軍犬のハンドラーとして戦闘に従事したのです。これらの軍犬は戦後549頭がアメリカに戻りました。再訓練の効果は十分にあがり、民間の暮らしに戻れなかったのは、わずか4頭でした。そのような軍犬の訓練の様子とグアム戦での従軍経過を当事者が紹介した本です。
 軍犬は凶暴さより、むしろ家庭のペットと同じく、知性、従順さ、忠誠心、スタミナ、信頼性、鋭い聴覚と臭覚とが求められる。ある程度の攻撃性は必要だが、ハンドラーがそれを制御できる範囲内でなければならない。たとえば、恐怖から噛む犬は極端に臆病で、卑怯な振る舞いをする。犬は自分との関係を支配してくれる人間を好むものだ。
 軍犬は訓練によって戦場では声を出さないように教えこまれるそうです。なるほど、ですね。
 この本を読んでもっとも驚いたのは、日本軍が自殺的なバンザイ攻撃をする前夜の様子がアメリカ軍に察知されていたということです。この本には次のように紹介されています。
 テンホー山の山頂に日本軍兵士は大集団を成して酒を飲み酔っぱらっていた。日本兵の集団は遠く離れていたにもかかわらず、叫んだり怒鳴ったりする声がアメリカ軍にも聞こえていたし、目撃されていた。日本兵は、空いた酒瓶を宙に放り投げたり、銃剣や軍刀を振りまわしたりして、予定の攻撃に向けて、自らを熱狂に駆り立てていた。
 日本軍兵士の突撃はアメリカ軍の機関銃と小銃射撃によって撃退されたが、第一波、第二波、第三波と襲いかかり、波の切れ目がなくなっていった。日本兵は絶叫する暴徒の群れとなって、次から次へと押し寄せた。彼らは100人単位で命を落とした。
 なんだか、本当に哀れな状況です。バンザイ突撃を今でも聖戦視する見方があるようですが、こんな不条理な戦闘を最前線の兵士に強いた日本軍上層部の責任は糾弾するほかありません。第二次大戦においてアメリカ軍で軍犬が活躍していたことを初めて知ると同時に、日本軍によるバンザイ突撃の不条理さを改めて認識させられた本でした。

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