弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年5月 2日

宮澤喜一回顧録

著者:御厨 貴、出版社:岩波書店
 自民党の元首相が何を言うのか、あまり期待もせずに読みはじめましたが、意外や意外、戦前から戦後、そして現代政治について、かなり思い切って裏面も紹介しながら語っていますので、面白く読みとおしました。たとえば、宮澤元首相は憲法9条を変える必要はないと言うのです。これには私も、まったく同感です。
 現に自衛隊が50年いる。それは事実だ。でも、だからといって条文そのものを変える必要はないだろう。いま誰も自衛隊をやめろと言っているわけではないし、そうかと言って、わが国は外国で武力行使をしてはいけないということは多くの国民が承認していることなのだから、なにも憲法9条2項を変えなければならないことはないのではないか。9条を中心に改正することは入り用のないことだ。
 同じく、宮澤元首相はイラクへの自衛隊の派遣についても批判的です。
 イラク戦争は、かつてのアメリカではありえなかった先制攻撃をしかけたもの。ところが、大量破壊兵器はなかったし、9.11とイラクに直接の関係のなかったことが明確になった。そして国連の安保理事会で多数の賛成を得ることなく、ブッシュ政権が先制攻撃をかけた。このような問題のあるブッシュに対して、小泉首相は少し踏みこみすぎたのではないか。ブッシュはネオコンにひっぱられている。そこに、イギリスのブレアほどではないが、小泉首相がコミットしていることに少し不安をもつ。日米安保条約はたしかにある。しかし、だからといってここまでアメリカに踏みこみすぎることがいいのかどうか。
 幸い自衛隊はこれまで攻撃を受けずに仕事をしているからいいようなものの、実際には宿営地の外へ出て、思ったほど仕事ができているわけではないし、場合によってはいつゲリラの攻撃を受けるかも分からない状況におかれている。いま武力行使はしていないが、何者かに襲われたら正当防衛せざるをえない。そのとき死んだとか殺したとかいうことになりかねない。そいう立場に自衛隊を置くことを日本の憲法は果たして想定していただろうか。やや疑問を持っている。
 小泉首相についても危ないという不安感が拭えないようです。次のように語っています。
 小泉首相の政策を徹底していくと従来からの自民党の支持基盤そのものが崩されることになる。自民党は既存の現役候補者をかかえているので新人が出ない。民主党の方が出世の早道になっている。官僚出身も民主党に行く人が増えている。民主党は、私にいわせるとやや仮面をかぶったまま、政権交代が可能な政党としてのイメージを獲得していくのではないか。自民党は公明党にかなり寄っかかっているところがあるので、民主党はいいところまで伸びていくのではないかと予測している。とくに小泉改革が本当に成功していけば、自民党が立っている基盤そのものがかなり緩むので、これは思わぬ展開をしないとも限らないと感じている。
 宮澤元首相は、日本がこれだけ経済大国になって、安全を他国に依存しているだけでいいのか、今後もアメリカ頼りでいいのか、という点も問題提起しています。ただ、自主独立をとるべきだという強い主張でもないようですが・・・。
 内閣の閣議なんて、実は議論する場なんかじゃない。このように率直に紹介されているのも驚きでした。なるほど、言われてみればそうなんでしょう。前日に開かれる次官会議ですべて決まっていて、それを承認するだけのセレモニーなんですね。
 アメリカとの単独講和について、反対する人がいるけれど、当時はあれしかなかったんじゃないかと開き直っています。うーん、そうかなー・・・。私は動揺してしまいました。また、日米安保条約に反対する運動についても、あれは中味のない騒ぎだったと、一言のもとに片づけられています。そうはいっても、日米安保条約のもとでアメリカの横暴さはますますひどくなっていると思うのですが・・・。
 戦争を体験した70歳以上の自民党長老に戦争反対の声が強いのは頼もしいのですが、戦争を知らない30代、40代の政治家にいかにも「勇ましい」好戦派が多いのは困ったことです。いったい自分とその家族が率先して外国の戦場、たとえばイラクへ出かけるとでもいうのでしょうか。もちろん、私は戦場へ行きたくないし、子どもたちにも行かせたくなんかありません。

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