弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年3月14日

ピエールの司法修習ロワイヤル

著者:石本伸晃、出版社:ダイヤモンド社
 私のころの司法修習は2年間。のんびり、伸びのびと充実した2年間でした。今は短縮されて1年半です。この本を読むと、いかにもあたふたした修習生活で、慌ただしさすら感じます。もっとゆっくり、じっくり見習い期間を保障すべきだとつくづく思いました。私のときも、小さな声で、2年間も国家公務員並の給料を国からもらって勉強できるなんて、すごい。どうしてこんなに優遇されるのか。そんな疑問がささやかれていました。医師だって自己負担、自己責任でやっているのに、なぜ法曹養成だけ特別扱いするのか。弁護士なんて金持ちのために弁護するような存在じゃないか。そんなものを養成するのに税金をつかうなんて、実にけしからん。こんな意見は以前からありました。今は、それが表面に浮上して強く叫ばれるだけでなく、実行されてしまったところが昔とは大違いです。
 いいえ。私は、医師養成だって、キューバのように学生に負担させずに国家で養成した方がいいと考えています。そして、医師は基本的に準公務員扱いにするのです。医術で金もうけするというのは、なんだか割り切れないからです。もちろん、弁護士だって、税金で養成された以上、社会奉仕活動するのは当然の責務です。だから、いま現に、多くの弁護士が費用的には割のあわない国選弁護を担い、また当番弁護士に出動しているのです。法曹養成の世界に税金を出し惜しみすると、金もうけ以外はまったく考えもしない弁護士が爆発的に増えるのではないかと私は心配しています。やっぱり、社会正義の実現そして国民の基本的権利を擁護するのに使命感を燃やす弁護士がたくさんいてほしいものです。
 この本は司法修習生としての生活をホームページにリアルに紹介していたのを本にまとめたものです。私たちのころには考えられもしないメディアがあることを実感します。
 デパートのスリ見学の話が出てきます。私も修習生のとき、川崎競馬場にスリ見学に行きました。ビギナーズ・ラックで500円買って2000円ほどもうけました。1万円くらい買っておけばよかった。そのとき思いました。馬券売り場で万札の束が馬券に変わり、何分か後に紙クズと化して空に舞ってしまう現場を見て、ああ、世の中ってこんな(馬鹿げた)ことにお金をつかう人もいるのか。驚いたことを昨日のように思い出します。
 また、裁判所での修習のとき、検察官は裁判官室に足しげく通って裁判の打合せをしているのに、弁護人はちっとも姿を見せず不思議がる話が出てきます。私も同じような体験をしました。裁判官は弁護人が来るとなると身構えますが、検察官だと同僚が立ち寄って世間話をする。そんな感覚で応対している。そのような気がします。
 私たちのころは、青法協(青年法律家協会)が活発に活動していました。50人のクラスに20人ほどの会員がいて、自主的な研究会や連続講座などをしていました。銀座の映画館にサッコとバンゼッティの冤罪事件を描いた映画(ジョーン・バエズが主題歌をうたっています)を見に行ったことも思い出しました。
 クラスの自治会のような活動も盛んで、私も司法研修所当局との交渉の場に出たことがあります。のちに最高裁長官となった草葉良八氏が司法研修所の事務局長として応対しました。いかにも官僚的で横柄な態度だったので、みんなで憤慨しました。といっても、対する私も当時24歳、生意気盛りではありました。
 ホームページはありませんでしたが、代わりに私は後期修習のとき、しばらく日刊クラス通信を発行していました。昔も今もモノカキなのです。あまりうまくはありませんが、ガリ切りをしたのです。ガリ切りって、分かりますか? ガリ版印刷です。学生のころセツルメント活動にうちこんでいたので、ニュースをつくるのは苦にもなりませんでした。研修所での即日起案は、できる人たちのを寄せ集めましたから、簡単なものです。青法協会員とシンパ層には、できる修習生がたくさんいました。そうそう、青法協活動を探るスパイのような修習生もいましたよ。堂々と活動してたんですけどね・・・。
 いろんな経歴の人と出会い、本当に人生に役立った2年間の修習生活でした。たくさん税金のムダづかいをしている日本が、こんな大切なものを削ってしまうのが私には許せません。人材を育てるって、やっぱり国家の大切な事業ではないのでしょうか・・・。

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