弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年2月24日

塀の中から見た人生

著者:安部譲二、山本譲司、出版社:カナリア書房
 著者の2人とも刑務所経験があります。安藤組の元組長による『塀の中の懲りない面々』はミリオンセラーになりましたが、私も面白く読みました。実にさまざまな収容者が登場します。元衆議院議員が政策秘書の給与を不正流用し、一審の実刑判決に控訴せず服役した獄中生活をつづった『獄窓記』は、前者とは違った収容者の実情を知らせるものでした。著者の真摯な服役生活に感じるものがありました。
 舎房で本を読むときの遅読法というのを初めて知りました。時間はたっぷりあるのに官物の本は数が決まっているので、すぐに読み終わってしまったら困るのです。
 だから、単純な言葉でもいちいち広辞苑を開いて意味を確認しながら読む。これで時間をかける。おかげで広辞苑はボロボロになった。読めるけれど書けない漢字を、いちいちノートに書き出しては覚えるまで次の行にすすまない。これをやると、とんでもなく難しい漢字でも苦もなく書けるようになる。
 冬の寒さは辛い。舎房で本を読んでいると、目玉が冷たくなって、痛くなって、どうにも文字が追えなくなる。仕方ないから片目ずつつぶって、温めながら読む。涙も出てくる。
 悪い看守はほとんどが若い奴だ。舎房や工場を高いところから見下ろしている。だんだん歳をとって、定年も近づいて、退職金の計算をするようになると、目線が低くなってくる。
 初犯刑務所は再犯刑務所よりずっと厳しい。矯正可能性があると思うから刑務所側も力がはいっているからだ。刑務所運営でうまいやり方は、最初に受刑者から徹底的に自由を取りあげておいて、少しずつ自由を与えることで受刑者を意のままに従わせるというテクニックをつかうこと。
 初犯刑務所を出所した人間の再犯率は5割。ところが、再犯刑務所を出た人の再犯率は9割。つまり、刑務所に2回入ったら、もう一生刑務所と縁が切れることはないと思ってよい。刑務所というところは、うらやましいっていう気持ちを、すべて憎しみに変えるところ。ひがむ人間がたくさんいて、なんとか足を引っぱろうとする。
 社会でも前科者という偏見はきわめて根強い。前科者が更生するというのは大変なこと。顔からしゃべり方、驚いたときや真剣なときの目つきまで変えなければいけない。懲役顔というのがある。我慢したり、折りあいをつけたりばかりしていると、きっとこんなふうになるだろうなという顔のこと。
 受刑者は7万人。外国人が1割近い6千人もいる。うち中国人が2千人。塀の中の国際かは外よりすすんでいる。
 いま毎週、刑務所に通っています。本当に寒いところにあります。ときどき軍隊式行進のかけ声が聞こえてきます。受刑者に対してもう少し社会の風があたるようにしないと社会復帰は難しいという気がします。厳罰を課して隔離しておけばいいというばかりでは受刑者は増える一方です。しかし、その大半はいずれ出てくるのです。そのとき、本当に更生していなかったら、もっと大変なことになると私は思うのです・・・。

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