弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年2月 7日

希望格差社会

著者:山田昌弘、出版社:筑摩書房
 日本社会が、いや世界全体がグローバリゼーションの大波のなかで、大きく変わりつつあることを改めて認識させられる本です。現状分析については、なるほど、なるほど、と何度もうなずきました。ところが、対策というか、解決の処方箋のところでは、ええっ、そんなー・・・と裏切られた思いにかられ、ガックリ肩を落としてしまいました。規制緩和をさらにすすめようと言うのですから、ひどいものです。
 まずは現状認識が肝心です。グローバリゼーションの影響によって、近年、世界全体に社会から排除され、将来の希望がなくなり、やけになる人が増えている。
 リスク化がすすみ、自己責任が強調されると、リスクに備えて、事前に努力をしてもムダだということにつながる。すると、多くの人々から希望は消滅し、やる気は失われる。そこで、努力をせずに、リスクに目をつむり現実から逃避して生きるという「運頼み」の人間があらわれる。「運頼み人間」とは、ギャンブル好みの人間ということではなく、自分の人生自体をギャンブル化してしまう人間のこと。
 年功序列、終身雇用、企業内労組、社内福祉というのは日本的な雇用慣行だとよく言われるが、そんなものは戦前の日本にはなかった。
 近年、父と息子の階層の関連性は強まっており、階層は固定化する傾向にある。
 未婚化も進行している。今は男性12%、女性6%だが、これが1980年生まれの若者だと男性25%、女性18%まで生涯未婚率は上昇すると予測されている。未婚化は同棲が増えるということではない。結婚したいのにできない確率が上昇する。そもそも恋人や異性の友人がいない人の割合がこの20年で増大している。現在、40歳の人の離婚率は20%であり、いま20歳前後の若者の最終的な離婚経験率は30%になると予測されている。
 近年、急増しているのは、10歳代や20歳代前半のできちゃった婚。2人の収入がまだ少なく、生活基盤が整わないにもかかわらず、レジャーへの関心が高い。子どもの存在は生活を脅かすリスクを通りこし、子どもの存在自体が生活を送るときの邪魔ものになる。子どもの虐待が増加するわけである。
 ひきこもりは100万人、いや200万人いると見られている。ひきこもりが長期化し、20歳代、30歳代のひきこもりが増えている。
 年収の高い夫の妻の就労率は高く、年収の低い夫の妻の就労率は低いまま。不安定就労者同士で結婚し、夫も妻も低収入で失業率の高い夫婦が増えている。個人の収入の格差が、結婚によって拡大し、家族生活の二極化を加速している。
 将来に絶望した人が陥るのは、自暴自棄型の犯罪である。不幸の道連れだ。人生を捨てている人に怖いものはない。若者の絶望感は、いま以上に深くなるだろう。その先には、アディクションにふけるものや、自暴自棄になる者も増え、なかには、「不幸の道連れ」型の犯罪に走る者も出てくるだろう。人間はパンのみで生きているわけではない。希望でもって生きるのである。ニューエコノミーがうみ出す格差は、希望の格差なのである。ニューエコノミーは平凡な能力の持ち主から希望を奪っている。
 私も、弁護人になるたびに、老いも若きも希望を奪われている人がいかに世の中に多いか、本当に痛感しています。

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