弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2005年1月27日

テレビの嘘を見破る

著者:今野勉、出版社:新潮新書
 私はテレビを見ません。高校生のとき、紅白歌合戦なんて日本人を一億総白痴化する番組でしかないという文章を読んで、なるほどと思って以来のことです。ただ、自然界に生きる動物をとらえた映像だけはビデオで見ます。私がテレビを見たくないのは、テレビの時間割に縛られたくないという心理も働いています。私は、あくまで自由でありたいのです。テレビなんかに縛りつけられるのはまっぴらご免です。
 ところで、この本は、ドキュメンタリーと称する番組が「やらせ」でできていて何が悪いのかとテレビ側の人間がいわば開き直って書かれたものです。読んで、なかなか説得力があると思いました。マイケル・ムーア監督の『華氏911』はドキュメンタリーとして良くできていると私は拍手を送りました。しかし、あれは、単なる反ブッシュのプロパガンダにすぎないのではないかと批判する人がいます。でも、本当にそうでしょうか?
 事実を真向からブッシュ大統領にぶつけて、イラク戦争の是非を視聴者に考えさせる材料を提供するものとして、『華氏911』はすぐれた作品だと私は思います。
 ベトナム戦争のとき、アメリカ軍のナパーム弾を浴びた村から少女が素裸で苦痛の悲鳴をあげながら走ってくる有名な写真があります。幸い、この少女は今も生きています。この写真がどのようにしてとられたのか、初めて事情を知りました。アメリカ軍はカメラマンたちにナパーム弾をゲリラの村に投下するところを撮影させようと待機させていました。村人たちは寺に避難させられました。なんと、その寺にアメリカ軍はナパーム弾を誤爆してしまったのです。だから、つくられた偶然によって撮影された写真だったのです。
 テレビの「やらせ」が一般の視聴者に見破られない理由は、放送までに何重ものチェックを受けているからだといいます。それでも「やらせ」はあります。それは「再現」ビデオと明記されていても同じような問題があるのです。
 昔の風俗を伝えるために過去の事実を再現することは許されるし、必要なことだと著者は協調しています。なるほどと私は思いました。
 見知らぬ地へはるばる出かけるときの行きの行程シーンが、実は帰りに、ところどころUターンして撮られたものだという「しかけ」には目を開かされました。同じ道を帰ってくる必要がありますが、行きはノンストップで行き、途中、絵になりそうなところをメモしておくのです。そして帰路にところどころでUターンして映像をとるというのです。なるほど、なるほど、いろいろ勉強になりました。

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