弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2004年9月 1日

警察の視点、社会の視点

著者:広畑史朗、出版社:啓正社
著者は現在、福岡県警本部長です。栃木県警本部長をつとめていたとき、石橋警察署で、被害者の親からの捜査要請を無視しているうちに、その少年が殺害されたという重大な警察のミスが発覚しました。この対処をめぐって、各署に出かけて一般署員に向けてした訓話を中心にまとめた本です。
 著者は、その後、政府の司法制度改革推進本部のもとにおかれた裁判員制度・刑事検討会の委員もつとめています。いわば警察官僚のチャンピオンなのです。私も一度その講演を拝聴しましたが、なるほどと思わせるソフトな語り口でした。
 警察官に不祥事が多いというけど、実はそれほどでもない。弁護士に比べたら格段ましなんだ。このことが何度も紹介されています。警察官の士気を高揚するために本部長として言いたかったことでしょうが、弁護士である私には、やはり大いにひっかかります。
 「バブル経済の崩壊後、毎年2桁台の弁護士が逮捕されている。弁護士は1万7千人、警察職員は26万人だから、警察官が年間150人以上捕まる計算となる。警察職員より弁護士集団の方が犯罪発生比率のはるかに高いことは、案外知られていない」
 「弁護士の現職は1万5千人、うち懲戒請求が1030件。弁護士の10数人に1人がクライアントから不適正だとして懲戒請求を受けている。なかなかのものじゃないか、ということを公然と言いたいのを私はじっと我慢している」
 私も弁護士に非行がないとはもちろん言いません。しかし、弁護士の逮捕が年間2桁というのを問題とするなら、警察は例の裏金を自ら全面的に明らかにしてからモノを言うべきだと思います。証拠となる会計帳簿を自ら処分しておいて、真相究明できませんでしたというのは通りません。しかも、ことは本部長以下、部長クラスの幹部がほとんど利益を享受していたという問題なのです。警察が国民の信用を回復するためには、まずは裏金問題を公正に処理すべきではないでしょうか。

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