弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2004年8月 1日

小林多喜二を売った男

著者:くらせ・みきお、出版社:白順社
 戦前の有名なプロレタリア作家・小林多喜二の本は今どれだけ読まれているのだろうか。この本は、その小林多喜二を官憲に売り渡したスパイ三舩留吉を探りあてる過程を紹介している。三舩は秋田に生まれ、上京して東京下町の労働運動にとびこむうちに、検挙・拘留を重ねるなかで特高の毛利基警部のおかかえスパイとなった。
 インテリ出身の多い共産党内部では労働者出身として重視されて出世し、スパイMが党の内部で、三舩が青年運動(共青)におけるスパイとして「活躍」した。まだ三舩が25歳のときのことである。
 スパイとして摘発されたあと、三舩は満州へわたり、戦後、シベリア抑留のあと水原茂とともに帰国した。戦後は富山市で電力会社の下請会社をおこして成功したが、スパイMの病死(1965年)から7年後の1972年に病死した(享年62歳)。
 戦前の共産党はスパイに支配されていたとする史観もあるが、私はそれは間違っていると思う。1960年代のアメリカのブラックパンサー党にも警察のスパイが多数はいりこんで壊滅させられたことは有名だが、それは国民の意識から離れたところで過激な暴力闘争路線をとってしまった誤りにつけこまれたものだと思う。やはり、国民の意識と完全にずれないところで、しかし、半歩だけは先に立ってすすんでいく必要があるのだと私は思う。

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