弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2003年7月 1日

にあんちゃん

著者:安本末子、出版社:西日本新聞社
 7月20日(日)、記録的豪雨のあとの福岡市内はよく晴れていました。昨年に引き続いてフランス語検定試験(準1級)の口頭試験を受け、冷や汗をたっぷりかかされました。頭を冷やすために本屋に寄って手にしたのが、この本です。帰りの電車のなかで読みはじめたのですが、涙が出て止まりませんでした。両親を亡くした4人兄妹。お金がないから学校に弁当をもっていけない。1つのお弁当を兄妹がゆずりあう。お金がないから教科書が買えないので、学校を休まざるをえない。成績優秀のため校長先生に表彰されるのにツギハギだらけの服しかない。働き手の長兄が炭鉱をクビになって下の弟妹は他人の家にお世話になるが、そこでいびられる。
 そんな貧乏な生活なのに、著者は明るさを失いません。10歳の少女の日記とは思えない鋭い文章がいくつも登場して、モノカキを自称する私の心を強くゆさぶります。
 学校さえ行ければ、それでいいのです。楽しみは、学校なのです。私の夢は学校なのです。小学校4年生の女の子が、こんなに学校に行きたかったのです。それなのに、お金がないから、3分の1は休まなくてはいけませんでした。栄養失調のため病気にかかり、それもあって学校を休みます。本当に悲しい現実が目の前に次々と起きてきます。それをじっと兄妹で支えあいながら耐えていく心のあたたかさを感じます。
 電車の外は大雨でした。私の頭の中にも、あたたかい雨が降って、汚れた心をきれいさっぱり洗い流してくれました。すばらしい本に再会して、一日トクした気分でした。

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