弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

司法(警察)

2010年11月23日

くにおの警察官人生

 著者 斉藤 邦雄、 共同文化社 出版 
 
 2004年、北海道警の裏金問題を初めに告発したのは、元警視長で元道警の釧路方面本部長でもあった原田宏治氏でした。著者は、原田氏に続いて裏帳簿を提供して告発を裏付けた弟子屈(てしかが)警察署の元次長です。まことに勇気ある人々です。心より敬意を表します。
 このお二人が趣味のサイクリングで仲間だったことは、本書を読んで初めて知りました。著者は私と同じ団塊世代です。警察学校の教官を2回も経験していますので、警察官として優秀であったことは間違いありません。
 この本は、「市民の目フォーラム北海道」のホームページにブログ「くにおの警察日記」を連載していたのを一冊の本にまとめたものですので、肩のこらない、大変読みやすい内容になっています。
 裏金づくりに加担させられ、ニセ領収書を作成した口止め料として、北見警察署に着任早々、防犯課長から毎月3千円をもらった。1973年のことである。裏金づくり、そしてその利用は古くからあり、また広い範囲で根づいていた。このことが、体験をふまえことこまかに具体的に紹介されています。
裏金を使うのは、あくまでも上層部の特権である。書類をもっともらしく作らなければならないのは、下っ端の庶務係だった。いやはや、すまじきものは宮仕え、ですよね。
 暴力団組長に捜査情報を流し、かつ暴力団組長とゴルフで遊びまくる。そんな警察官が全国優秀警察職員表彰を受けることがある。なんとなんと、そんなこともあるのですか・・・・。
 いま、新しい裏金づくりの手口がある。物品が納められていないのに納入されたことにして代金を支払い、業者にそのお金を管理させる、いわゆる「預け」。このほか、業者に事実とは異なる請求書を出させて別の物品を納入させる「差し替え」などである。民間企業を巻き込む手口は、止まるところを知らず、エスカレートする一方である。
 警察官の仕事の大変さも知ることのできる本でした。
 
(2010年8月刊。1600円+税)

2010年11月 6日

はまゆう

 著者 小坪 哲成、 海鳥社 出版 
 
 タイトルも何のことやら見当がつかず、冴えないセピア色の昔の街頭風景写真をつかった表紙で、手にとって読みはじめたとき、正直言って期待していませんでした。ところが、案に相違して、この本はとても面白いのです。
 私より少し若い著者は、今年、60歳で警察を定年退職しました。福岡県警で40年あまりを勤めあげた、その経験がこの小説に見事に結実しています。
 暴走族特別捜査班長時代には、「鬼班長」として暴走族から恐れられていたといいますが、その文体はきめ細かく、読み者の心をつかむ秀逸な文章になっています。私も職業柄、警察小説を多読していますし、元警察官の書いた本もたくさん読んでいますが、この本は、ピカイチの部類に入ると私は思います。なんといっても、捜査の現場にいたことのある体験を生かした描写には圧倒的な迫真力があります。オビに、「実際の捜査現場を、リアルに再現した“本当の”警察小説。容疑者との根くらべ。ひたすら脚を使った地道な捜査。わずかな手がかりを頼りに、倦むことなく犯人を追う―」とあります。
 実際の捜査現場は、こんなものなんだろうな、大変だなと思いつつ読みすすめていきました。殺人事件が起きます。その犯人が迷宮入りするなかで警察官を志望する二人の青年。警察のなかで鍛えられ、やがてひょんなことから、犯人の目星がつきます。しかし、どうやって口を割らせるか・・・・。思案のしどころです。そこは足を使うしかない。聞き込みにまわります。
 捜査とは、そ・う・さ、である。「そ」とは犯罪現場では、掃除をするように、小さなごみ一つでも見逃さない。なぜ、それがそこにあるのか、自分で納得できるまで追及する。「う」とは、嘘をつかないこと。「さ」とは、最後まであきらめないこと。
 これって、弁護士の仕事にも通じる大切なことです。
(2010年8月刊。1300円+税)

2010年10月26日

封印

 著者 津島 稜、  出版 角川書店
 
 1982年(昭和57年)秋に発覚して、世間で大問題となった大阪府警のゲーム機汚職事件について、当時、産経新聞大阪社会部にいて事件を追及していた著者の体験をもとにしたノンフィクションのような小説です。さすが迫真の描写です。逮捕者5人、現職警官ら124人が処分された史上最大の警官汚職事件の発端から最後までが生々しく描かれています。
 とりわけ、スクープを抑えようとする新聞社の経営幹部の言動、そして、当時の府警本部長だったキャリア警察官(警察大学校の校長)の自殺に至る経過などが強く印象に残りました。ただ、「あとがき」に府警内部の「餞別・祝儀」という習慣がなくなり、網紀粛正が徹底している、と書かれていますが、本当にそうなのか、私には信じられません。今も巧妙に形を変えて残っているのではないでしょうか。狙撃された国松元警察庁長官が超高級マンションになぜ住めたのか、その謎はいまもって明らかにされていません。
 そして、この本は、大阪地検特捜部を評価する本でもあるのですが、現在進行形の証拠偽造事件を知るにつけ、当時から無理な捜査をしていなかったのか、知りたいところでもあります。それはともかくとして、地検特捜部と警察との微妙な関係もよく描かれていて、大いに勉強になりました。
 大阪特捜は、事件捜査について、土肥氏らが培った伝統を継承した時代から、合理的かつ効率的な立件を重視する時代へと移行しつつある。大阪特捜にも時代の転換期が訪れたのかもしれない。
 府警幹部にからむ裏金の処理問題などを警察庁に正直に報告しても意味はない。自分の首をしめかねない。全国に同じような事情があることは警察庁も十分承知のところである。バカ正直な報告を受けると、建前上、警察庁も処分なり改善を指示しなければならない。だから、警察庁もそんなことは期待なんかしていない。
警察庁のホンネは、第一に無用の捜査は速やかに終結せよ、第二に、捜査の過程で予測できる疑惑については無視して凍結せよ。府警本部長が多数の業者団体から接待を受けようが、祝い金や餞別を受け取ろうが、問題ではない。それを問題にしたら、本部長は今後、異動も昇進もできなくなる。
そして、マスコミの内部ではスクープを止める力が働いた。ある経営幹部は次のように言った。
 こんな特ダネはいらん。うちの社は府警に世話になっている。本社主催のイベントで大掛かりな交通整理をしてもらっているし、印刷工場周辺に信号機も設置してもらった。最近も販売局が購買部数で協力を頼んでいる。
そうですよね。マスコミと警察の癒着は目に余ります・・・・。30年近くも前の出来事ではありますが、古くて新しいテーマだと思いました。

 
(2010年月刊。1900円+税)

2010年9月19日

北帰行

著者:佐々木譲、出版社:角川書店

 いつもの警察小説ではありませんでした。長編クライム・サスペンスと銘うった小説です。
 ロシアから送りこまれたヒットウーマンが大活躍します。といっても、次々にピストルで男たちを殺していくのを活躍と名づけるのは、少し気が引けます。
 暴力団がもちろん登場します。六本木を縄張りにしています。このところ、我が福岡でも拳銃発射事件が相次ぎ、しかも犯人もピストルも検挙・押収されていませんので、治安上の不安がつのります。
 警察には、もっと頑張ってほしいですし、私たちも、本気で暴力団依存体質から脱却すべきではないでしょうか。
 そのためには、大型公共土木工事優先の政治を転換する必要があります。大型公共土木工事が暴力団の喰いもの、最大の資金源であることを知らない市民が多すぎると思います。マスコミは、そのことをもっと大々的に、かつ、連続的に報道すべきではないでしょうか。
 先日の西部ガスへの連続発砲事件についての解説記事のなかで、工事受注額の1~5%を暴力団へ上納するシステムがあり、西部ガスがそれを拒否したことによる嫌がらせだという指摘はそのとおりだと思います。そんなこといって、おかしいでしょ。これは、みんなで声をそろえて、おかしい、許せないと叫ばないと、いつまでたってもなくならないと私は思います。
 だって、誰だって、自分一人がピストル向けられたら、何も言えませんからね。ともかく、この不景気な世の中で、ひとり暴力団だけがぬくぬくとしているなんて、とんでもないことですよ・・・。
 新潟、稚内に巣喰うコリアン系のロシアン・マフィアも脇役として登場してきます。
 今回は警視庁組織犯罪対策部は、後手後手にまわっていて、ほんの刺身のツマとしてしか登場しません。
 そんなことじゃあ、困るんだよな・・・。そう思わせる内容でした。
 車中で読みふけっているうちに終点に着いてしまいました。まだ読み終わっていませんでしたので、喫茶店に入って好きなカフェラテを飲みながら読了してしまいました。
 だって、結末がどうなったのか知らなくては、次へ仕事への頭の切り換えができませんからですね・・・。
(2010年1月刊。1800円+税)

2010年7月22日

時効捜査

著者:竹内 明、出版社:講談社

 警察庁長官狙撃事件が起きたのは1995年3月30日の朝。そして15年たった今年、2010年3月30日に公訴時効が成立した。
 警察トップが狙撃され、日本警察のメンツがかかっていた事件で、警察は犯人を検挙することが、ついに出来ませんでした。この事実の前に、何人と言えども、もはや日本の警察は世界一優秀だなんて言うことは許されないでしょう。
 警視庁本部庁舎14階、最高の眺望を誇る区画には公安部幹部が陣取っている。皇居を望むエリアには、公安部長(キャリア)、公安部ナンバー3にあたる部付(ノンキャリア)、筆頭課長である公安総務課長(キャリア)が執務室を構える。ナンバー2である参事官(キャリア)は公安一課長(ノンキャリア)とともに、桜田通りを見おろす窓側に個室を持つ。公安捜査員は1200人いる。いやはや、大変な人数です。それでも、無能だとのそしりを免れません。共産党の合法ビラ配布の尾行捜査は得意のようなんですがね・・・。
 国松長官は狙撃されて死線をさまよっている状況にあった。このとき、警視総監の井上幸彦(昭和37年入省)は、公安部をモトダチ(捜査の中核となる部署)とした。刑事部と公安部の捜査は、警視総監が一元化する。オウムとは全庁あげて闘うという井上総監の主張に、一期下の関口警察庁次長は異論を封じ込められた。現場での捜査経験のないまま公安部の幹部ポストに就任する警察キャリアが捜査に首を突っ込んで方向性を示してしまうと、真実とはかけ離れた事件の構図を作り出してしまうことがある。
 うへーっ、これって恐ろしいことですよね。そしてまた、これって警察キャリアの存在意義を否定するものでもありますよね・・・。
 この事件では、オウムの信者である公安警察官が犯人として執拗な取り調べを受けました。その点について、次のように指摘されています。
 ヨコガキの世界に生きてきた公安捜査員の弱点が露呈した。ヨコガキとは、供述内容をまとめた取り調べメモや捜査報告書のこと。つまり、刑事事件の捜査で作成する「タテガキ」すなわち司法警察員面前調書の書き方など、刑事訴訟法にもとづいた手続を学ばずにきた公安幹部が、刑事事件捜査を進めることになったとき、その弱点を露呈してしまった。刑事警察と公安警察の違いは根深いものがあるようです。
 「現場警官が国松長官狙撃を供述」と新聞に大々的に報道した。しかし、このとき警察庁は警視庁に対して激しく怒っていた。
 刑事と公安の捜査員の気質は違う。刑事は捜査方針をめぐって上司にかみつくことも辞さない。信じるべきは現場に残された証拠のみ。
 公安の指揮官は現場の捜査員に余計な情報をインプットしない。公安捜査員は捜査の全体像を求めることなく、与えられた任務のみに機械のように没頭し、与えられた範囲内で任務を着実に遂行しようとする。公安は組織を重んじ、個人の意思は存在しない。情報を獲得し、上司の命令に忠実に働く者が評価される。
 時効完成の翌日、警視中は「捜査結果概要」なるものをインターネット上に掲載した。前代未聞の行動である。そこでは、「オウムの犯行であると認めた」と明記されている。しかし、これは、司法手続をまったく無視したものであり、警察権限を無視した暴挙としか言いようがない。
 まったくもって、そうですよね。私は、オウム教団を擁護するつもりなんて、まったくありませんが、警察が、立件できなかったくせに「犯人はやっぱりあいつだ」なんてインターネット上で言うなんて狂気の沙汰です。これでは、裁判なんて不要だということ、つまり私刑の世界に逆戻りしたことになってしまいます。
 それほど警視庁(公安部)の実力低下と、それによる不安感を裏づけるものはありません。ですから、警察のためにも残念な行為だったとしか言いようがありませんよ。
(2010年4月刊。1900円+税)
 白いアサガオの花が咲きました。純白無垢で、すがすがしさを感じます。アサガオには黄色い花が無いそうですね。黒いチューリップや青いバラがないのと同じのようですが、植物にも色との相性があるわけなんでしょう。これも自然界の不思議です…。

2010年6月23日

違法捜査

 著者 梶山 天 、角川学芸 出版   
 
  志布志事件の全貌が、ようやく分かった。この本を読んで、そんな気になりました。まず、登場人物が2頁にわたって紹介されています。逮捕され、結局のところ無罪となった住民のみなさんは実名です。強引な取調をした警察官とそれを支えた検察官たちは、県警本部長や検事正などを除いて大半が仮名です。これは不公平というべきでしょう。だって、警察官にあるまじきことをした人たちは、被害者がマスコミで誤って大々的に報道され、親子断絶にいたった人たちだっているのですから、全員の氏名を明らかにせよなんてことは言いませんが、検事正と県警本部長以外はみな仮名というのは、あまりに不公平だとしか思えません。とりわけ、捜査責任者だった警部と担当検事まで仮名にされているのは納得できないところです。
 事件は2003年4月の統一地方選挙に「発生」しました。現金を住民に配って投票依頼したという公選法違反ですから、事実だとしたら、今どき、とんでもないことで、厳罰に処すべきだと思います。ところが、それがとんだぬれぎぬ、でっちあげだったというのです。ひどい警察があったものです。しかも、これを「摘発」した警察官たちは部内で大々的に表彰され、盛大な祝賀会までやっていたというのです。あきれてしまいます。
 この本は、こんなひどい捜査手法に反発していた警察内部の人から貴重な資料を提供してもらって書かれていますので、弁護士の私にも大変参考になりました。たとえば、事件の構図を描いたチャート図、取り調べの調書の下書きにあたる「取調小票(とりしらべこひょう)」、鹿児島県警と鹿児島地検との裁判対策の協議会議事録などでです。そのコピーがそのまま紹介されています。すごいことです。これを見ただけでも、この本を読んだ意味がありました。
取調小票というのは上司の決裁権もある、ちゃんとした内部文書である。単なる個人的メモではない。
鹿児島県警には、「たたき割り」という取り調べの手法がある。これは、被疑者を押しつけて、大声で怒鳴りながら、相手に威圧感を与えながら自白させるというもの。
 3、4日も取り調べたら、自供なしの手ぶらでは帰さない。結果を出せば評価されるし、ダメなら刑事失格の烙印を押される。自供させられないと、「おまえはダメなヤツだ」と怒鳴られ、転勤か配置換えで飛ばされる。勤務評定に響く。これが鹿児島県警の体質である。志布志事件では、被告人の拘留日数が驚くほど長い。中山信一さんは395日。その奥さんも273日。次いで185日など、大半が100日をこえる。一番短い人でも3ヶ月。保釈申請しても8回も却下された。これでは、裁判所も同罪ですよね。否認したら保釈が認められないのを、私たち弁護士会では「人質司法」と呼んで糾弾しています。
 大原英雄判事と前澤久美子裁判官も検察庁の無謀な起訴に手を貸してしまったと言われても仕方がないように思われます。
 そして、冤罪で逮捕された人たちが弁護人を信じられずに、解任したり、面会を拒んでしまうのです。というのも、弁護人と面会すると、そのあと決まって、弁護士との会話について根掘り葉掘り訊かれて嫌になるのです。弁護人とはいえせいぜい1時間の面会。取調の刑事のほうを、長く接しているうちについつい信用してしまうのでした。被告と弁護人との接見内容を調書にするよう指示したのは、麻生興太郎検事だった。
 うへーっ、ひ、ひどいものですよ、これって・・・・。弁護人は秘密に被告人と交流できないとこを知らないはずはないのに・・・・、ですね。
 接見内容を調書に取られたのは最高17回もあったのでした。許せませんよね。
 現代日本の警察の実態を知るうえで欠かせない本だと思います。とりわけ若い弁護士のみなさんには、ぜひぜひ読んでもらいたいと思いました。 
(2010年2月刊。2000円+税)
 初夏の庭にグラジオラスが次々い咲いてくれます。ピンク、白、黄色と華やかな花々に心が騒ぎます。
 梅雨に入ったので、アガパンサスのブルーの花も開いてくれました。地上に花火が打ち上げられた格好の素敵な花です。
 ちよこさん、私のブログまでご覧いただきありがとうございます。

2010年5月23日

警察庁長官を撃った男

著者:鹿島圭介、出版社:新潮社

 国松孝次・警察庁長官が暗殺されようとした事件が、ついに時効を迎え、迷宮入りが確定してしまいました。日本警察の完敗です。
 この本は、捜査にあたっていたのが警視庁公安部であったから犯人検挙ができなかったのだと口をきわめて再三再四、厳しく弾劾しています。
 先ごろ、日曜日、マンションに日本共産党の赤旗新聞号外を配布した人(公務員でした)を強引に検挙して、あげくの果てに無罪になった事件がありましたが、その事件の主役も同じ警視庁公安部でした。マンションへのビラ配布事件では。1ヶ月ほどもその人を尾行していて、ビデオで撮影していたと言います。よほど警視庁公安部ってヒマなんですね。とても犯罪にならないような事件を何十人もの公安係の刑事が尾行していたというのです。全部、これって税金でまかなわれる公務なんですよね。ひどいムダづかいです。ところが、自分のボス(親玉)の暗殺未遂事件では犯人検挙ができなかったというわけです。警視庁公安部って、どっか狂っている感じですね。
 時効が完成したあと、やっぱりオウムが疑わしいんだという報告書を警視庁公安部が主体の捜査本部が発表してマスコミから叩かれていましたが、その批判はもっともだと思います。強力な権力を握っていながら、立件もできなかったのに、あいつは疑わしかったんだ、なんて犬の遠吠えみたいな言い草はないと思います。
 この本の恐るべきところは、暗殺(未遂)犯を実名であげ、その背景と経過を明らかにしたうえ、なぜ立件されなかったのかを追及しているところです。
 結局、警視庁公安部がオウムを犯人に仕立てあげるのに固執していたため、すべては狂ってしまった。このように著者は言いたいのです。
 警察庁長官狙撃事件で犯人とされていたのは、オウム真理教の現役信者であった元巡査長でした。この人は、なんと3回も警視庁公安部から取り調べを受けたのです。これは、たしかに異例すぎます。
 この異例の大失敗を重ねた責任者は、2010年1月に警視総監を勇退した米村敏明氏だと、著者は厳しく弾劾しています。この本を読むと、それもなるほどと思わせます。米村氏の弁明を聞いてみたいと思いました。
 警察庁長官狙撃事件が発生したのは1995年3月30日のことです。その10日前の3月20日にオウム真理教による地下鉄サリン事件が発生しています。
 そのころ私は弁護士会の役員をしていましたから、上京することも多く、地下鉄の霞ヶ関駅にもよく行っていました。事件にぶつからなかったのは運が良かったとしか言いようがありません。
 国松長官が住んでいたマンションは、超高級マンションであり、国家公務員の給料だけで買えるはずはないという指摘もされていました。私も、そうだと思います。県警本部長を退任すると巨額の餞別金をもらえる。また、警察の裏金の支給もある。こんなお金で、この超高級マンションを購入したのではないか・・・。この疑問のほうも解明されないまま、事件は時効を迎えてしまい、本当に残念です。
 日本の警察よ、もっとしっかりしてくださいね。お願いしますよ。
(2010年4月刊。1500円+税)

2010年1月14日

後悔と真実の色

著者 貫井 徳郎、 出版 幻冬舎

 タイトルからはさっぱり見当つきませんが、警察小説です。
 挑発する犯人と刑事の執念がぶつかりあうリアルな警察小説にして、衝撃の本格ミステリ。このように帯に書かれていますが、確かにそうです。
 推理小説でもありますから、犯人のなぞ解きはしません。意外な結末だったというにとどめておきます。
 警視庁のもつデータベースを閻魔帳という。警視庁がこれまで入手したあらゆるデータがすべて収められている。一度でも逮捕されたことのある者の個人データは当然のこととして、単なる職務質問で得た情報までデータベースには登録されている。
 都内で事件が発生したときには、このデータベースに地名を打ち込む。すると、逮捕歴のある人について、本籍地や現住所、過去の住所、家族や親せきの住所、愛人の住所のいずれかが引っ掛かったものがすぐさまリストアップされる。洗われるデータは住所だけではない。過去に犯罪を起こした場所も検索されるし、職務質問を受けた場所も事件現場に近いかどうか見逃されない。
 この検索で浮かびあがった人物は、土地勘のある素行不良者として捜査対象になる。
 インターネットが一般に広く流布しはじめてから、犯人検挙率は大きく下がった。警察にとって、インターネットは諸悪の根源でしかない。
 警視庁捜査一課には、殺人犯捜査1係から14係、そして特殊犯捜査1係から3係まで、計17の殺人班がある。そのうち、事件をかかえていない係がローテーションを組み、新しい事件が発生した時にそれを担当するシステムになっている。ローテーションのトップにある係は、表在庁と呼ばれ、朝9時から夕方5時まで庁舎に待機する。2番目の係が裏在庁で、刑事たちは各自自宅待機する。3番目以降も自宅待機には違いないが、実質は非番である。ただし、最近では、事件を担当していない係が3つ以上もあることはまずない。今も警視庁は15の捜査本部を立ち上げている状態だ。
 警察内部の動き、そして、捜査官同士の反目がことこまかく具体的に描かれていますので、妙にリアリティがあります。一度、現職の人に感想を聞いてみたいものです。
 やや心理描写に冗長さを感じなかったわけではありませんが、最後まで犯人は誰なのか、目を離せない展開でしたから、息つく暇がありませんでした。
 
(2009年10月刊。1800円+税)

2010年1月 4日

巡査の休日

著者 佐々木 譲、 出版 角川春樹事務所

 北海道警シリーズです。
 かつては捜査本部長は所轄署長がつとめた。しかし今は、捜査本部長は必ず道警本部の刑事部長があたることになっている。しかし、キャリア組の刑事部長が捜査本部長におさまったところで、捜査の現場もノウハウも知らず、土地勘もない刑事部長に、具体的な捜査指揮など出来っこない。ただ、精神論を言うだけの存在である。つまり、名前だけ。道警本部全組織一丸で捜査にあたっているという格好をつけるための制度だった。刑事部長本人もそれを知っているから、通常の捜査会議には顔を出さない。顔を出したところで、そこで語られることが理解できるはずもなく、余計な口をはさめば、むしろ捜査の妨害になる。謙虚なキャリアはそれを知っている。ときおり、むやみに指揮したり、指示・命令を連発する捜査本部長も出てくるが、そんなとき、現場はひどく混乱する。部下たちは、事件解決よりも捜査本部長の指示に従ったという形をとることに腐心する。結果として、事件解決は遠のく。
 なーるほど、そういうものなんでしょうかね……。それでもキャリア組は警察組織には必要なんですね……。
犯人は自衛隊の出身者。それを道警は追って、横浜にまで捜査員を派遣する。
 そして、女性が狙われる。かつてのストーカー被害者がまたもやメールで犯罪予告される。道警の威信をかけて守りぬく必要がある。
いくつかの事件が発生し、それぞれの捜査がすすんでいきます。ところが、次第に、これらの事件は相互に関連を持っていることが明らかにされていきます。ここらあたりの筋立てがとても巧妙で、感心してしまいました。
 いつもながらの巧みな警察小説です。いやはや、すごいと感嘆しながら読みふけってしまいました。

 
(2009年11月刊。1600円+税)

2009年11月29日

捜査官

著者 本浦 広海、 出版 講談社

 退職した警察官が再就職する先として、警備保障業界はその代表である。警備保障業の所轄官庁が警察庁なのだから、これは腐れ縁としか言いようがない。どこの省庁でも裏事情は変わらず、自分たちが所管する企業に天下っていく。
警備保障業界と警察組織の間では、現場の警察官が再就職しやすい仕組みも作られている。その例が「指導教育責任者資格」だ。警備業法により、警備保障会社の各事業所内には、その資格を持つ者を置くことが義務付けられている。
 この資格を獲得するには、現場での経験年数が決められており、警察官経験者ならそれを簡単にクリアできる。
 なーるほど、よくできた仕組みですね。さすがに知恵者がいるものです。
 原子力発電所をめぐる紛争を舞台にした警察小説です。ええっ、こんなことあり、かな・・・・・・と思うところもあります。推理小説の類なので、これ以上の筋の紹介は控えておきます。
 原発を推進する側の企業(福岡で言うと九電のような立場にある企業です)が、反対運動のなかにスパイを潜りこませているというのは、まさしく現実のものだろうと思いました。大企業は手段を選ばないのですから……。
 そして、暴力団は地元住民の反対運動を暴力的に圧殺しようとします。もちろん、簡単にうまくいくわけではありません。
 それにしても、かつての過激派活動家が、今や原発推進の側にいて立派な接待を受けているとは……。団塊世代の悪しき変身ぶりを反映したストーリーになっています。同じ世代としては残念でなりません。

(2009年9月刊。1500円+税)

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