弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

司法(警察)

2009年11月21日

地取り

著者 飯田 裕久、 出版 朝日新聞出版

 もと捜査一課で刑事をしていたという著者による小説デビュー作だそうです。
 巡査、巡査部長、警部補、警部、そして警視が登場します。現場を取り仕切る管理官は警視です。
 警察では、部長というのはたいした地位ではありません。巡査部長を意味するからです。その上に警部補がいて、さらに警部などがたくさんいるのです。
 警察では、何かの犯罪で犯人を検挙したりして、捜査本部を解散するときなどに、ご苦労さん会と称する飲み会が開かれます。その費用が、これまでは裏金によって充てられていたようです。この点についての体験者(元警察官)の苦労話が活字になっています。
 地取りというのは、事件の発生箇所を中心として、ブロックごとにエリア分けをし、各エリアごとに1区とか2区と担当エリアを定め、2人1組で目撃情報や有力情報の聞き込み捜査をすること。捜査一課の古くからある捜査手法であり、きわめて地味だが、もっとも基本的かつ重要な捜査である。
 しかし、基本的な捜査手法であるために、近年では地取り捜査班は、係のなかでも比較的、日の浅い刑事が担当している。
 お前ら、これだけは覚えておけ。ホシを取るのはオレたち刑事だ。逆にホシの境遇だって考えてやるのが刑事なんだ。オレたち刑事は、犯人を死刑台に送り込む権利までは持っていないんだ。
 推理小説のような話の運びですので、ここではアラスジも話の概要も説明しません。お許しください。一気に読ませる本でした。これでプロでないというんだったら、私なんか、どんな存在なのでしょうか。がっくり気落ちしてしまいます。といいつつ、こうやってくじけずに書きすすめるのです。

 日曜日に仏検(準一級)を受験しました。年2回できない学生の悲哀をみっちり3時間にわたって味わいます。さすがに1級よりはわかるのですが今回は筆記試験も合格できるか自信がありませんでした。試験が終わって夕暮れの道をとぼとぼ歩いて駅に向かいました。ただ終わったことだけが救いです。車の中ではいつもNHKのフランス語CDをかけて反復練習をしています。フランス語が身近に感じられます。

(2009年5月刊。1700円+税)

2009年9月26日

同期

著者 今野 敏、 出版 講談社

 同期というのは、有り難いものです。一緒に弁護士になり、2年間の司法研修所生活で苦楽をともにした仲間は、10年経ち、20年経って、30年経っても、会えば、やあやあやあと、顔中の笑顔が湧き出てきます。そんな弁護士もロースクール(法科大学院)になると、かなり様変わりしてしまいました。なにしろ人数が違います。私たちの頃は50人のクラスが10組あって、全部で500人足らず。今や2000人というのですから、同期といっても顔見知りである方が少ないでしょうね。せいぜい実務研修地が同じでないと相互交流も一体感もないと思います。
 この本は、警察官にも強烈な同期意識があることを前提としています。
 私立大学を卒業して警察官になり、初任地研修で同期だった2人のその後をめぐって話は展開していきます。一人は犯罪捜査の第一線にある刑事部に所属した。もう一人は本庁公安部に引っ張られていった。そして、刑事になった主人公がある日、内偵中に公安部に配属された同期生から内定対象者に襲われて危ないところを危機一髪、助けられるのです。
 日本の情報機関の中で一番の力を持っているのは国の組織ではなく、警視庁の公安部だと言われている。つまり、日本のCIAは、公安調査庁でも内閣情報調査室でもなく、警視庁公安部なのだ。警察の中にゼロという組織がある。ゼロは、かつてサクラやチヨダと呼ばれたことがある。警察庁警備局警備企画課にある情報分析室のことだ。日本中の公安情報がここに集約される。
 プロは口を割らないと一般的には考えられているが、それは逆だ。取り調べで黙秘や否認を続けるのは政治的な信念や宗教的な信念を持つ犯罪者だけだ。ヤクザなどは、一番口を割りやすい。
 警察がさまざまな思惑のもとで動いていることを実感させる小説でした。
 この先、どういう展開になるのか期待しながら頁をめくる手がもどかしいほどでした。良くできています。
 これ以上詳しいことは紹介できませんので、最後にオビの言葉です。
 刑事、公安、組対…。それぞれの思惑が交錯する。大きな事案を追いつつ、願いは、ただ同期を救うことだけ。
(2009年7月刊。1600円+税)

2009年9月20日

廃墟に乞う

著者 佐々木 譲、 出版 文藝春秋

 うまいものです。いつ読んでもたいしたものだと感心します。ただ、今回は連作小説なので、謎解きがちょっとばかり早すぎて、少々物足りない感もありました。
 北海道警本部捜査一課の仙道孝司警部補は心の痛手を癒すために上司から休職を命じられています。休職中は新聞も読まず、温泉にでも入って何も考えたらいけないと医師から指示されているのでした。
 そんな仙道に、知人から次々に依頼があるのです。捜査権限もないのに、どうやって事件に関われるか。昔の同僚に教えを乞い、現場の捜査員たちから「邪魔してくれるな」と言われながらも、仙道は関係者を訪ねて歩き回るのでした。
 犯罪は捜査員の心までも傷つける。帯に書かれた言葉です。なるほどそうだろうなと思わせます。
 私もいま被疑者国選弁護事件を引き受け、毎日とまでは行きませんが、警察にしょっちゅう出入りしています。応対する警察官もいろいろです。臨機応変に対応してくれる人もいれば、四角四面の人もいます。
 一日中、灰色の部屋に缶詰になっている警察官について、哀れだなと感じることがあります。交際範囲が限定され、狭くて窮屈な階級社会のなかで、毎日とてもストレスがたまるばかりではないでしょうか。
 先日、私の面会した被疑者が厚手の長袖を着ていたので驚きました。冷房の効き過ぎで寒いからだと言います。恐らく留置所係員のために冷房をきかせているのでしょう。まさか、それって逃亡防止ではないでしょうね…。

(2009年7月刊。1600円+税)

2009年8月19日

「特捜」崩壊

著者 石塚 健司、 出版 講談社

 東京地検特捜部に対する、ここ数年聞かれる危惧の声は、これまでのものと次元が違ってきている。機能不全の兆候があるという。元特捜検事たちから、古巣の特捜部に対する不審や危惧の言葉を聞くことが増えている。
 特捜部の任籍期間が徐々に短くなっている。かつては10年以上がザラだったが、現在は特捜部長で6年、副部長で5年となっている。人材育成のシステムが失われてしまった。そして、特捜部長の前任地は法務省の行政職だというケースが最近は多い。
 現在の特捜検察の問題点として、上意下達型、悪者中心型、劇場型の3つのキーワードがある。
検事の隠語のなかに、自動販売機というのがある。取調官に迎合し、何でも言われるままに認める状態になった相手の人間を言う。相手が自動販売機になったとき、調子に乗って作文した調書に次々と署名させていった結果、明白な事実と反する内容の調書まで法廷に出す失敗を犯し、弁護側に矛盾を突かれて、調書全体の任意性を否定されたという例もある。だから、自動販売機の取り扱いには細心の注意が必要で、しつこく事実を問い正し、供述の裏付けを取らなければならない。ふむふむ、なんだか思い当たります。
 自民党の新井将敬代議士は、1998年2月、特捜部の捜査を受けていた最中に自殺した。新井代議士は、まったく面識はありませんが、私と同じ団塊世代であり、東大闘争のときには過激派というべき全共闘の闘士だったそうです。
 真実の究明よりも、有罪の判決を得ることのみに全力を注いだように見える取調べ。これが現在の「日本最強の捜査機関」の実態であることはさびしい限りだ。
 そもそも特捜部は、警察には適さない、専門的な法律知識が必要な捜査をすることを建前としている。現在、国税庁、証券取引等監査委員会、公正取引委員会という強制調査権限を持つ3機関からの告発事件の捜査を一手に扱うほか、情報提供や告訴・告発を受けて独自の捜査をすることができる。
 全国に50ある地検のうち、東京・大阪・名古屋の3地検のみに特捜部が置かれている。福岡にはないのですね……。
 東京の特捜部は、検事32人と副検事2人、事務官91人の計125人いる。警視庁捜査2課(知能犯を扱う)や国税局査察部とは、比較にならないほどの小さな組織でしかない。
 検察庁の捜査能力が低下したため、そのかげで高笑いしている政治家や財界人、そして暴力団などの闇の勢力がたくさんいるのでしょうね。残念です。
 お濠のハスの白い花の上を、赤とんぼがたくさん飛んでいます。ツクツクボウシが鳴き始めて、昼間から秋の気配を感じられるようになってきました。
 我が家の庭の秋明菊も、ツボミをふくらませつつあります。夜になると、虫の音も勢いを増してきました。今年は、セイケンコータイ、セイケンコータイと盛大に鳴くのでしょうね。でも、中身が良くなる政権交代でないといけません。看板だけ付け変わることのないようにしたいものです。

(2009年4月刊。1500円+税)

2009年5月31日

スパイと公安警察


著者 泉 修三、 出版 バジリコ

 内外のスパイを尾行したり、摘発したり、公安警部としての自慢話が中心の本ですが、その反面、家庭は崩壊し、自律神経失調症になったり、アル中になったりと心身もボロボロになって、いやはや実に非人間的で大変な仕事だということも伝わってきます。
 過激派の手配写真も、実はニセモノがあったりするそうです。逃亡犯を安心させるためのテクニックなんだそうです。そっかー……、と思いました。
 外国のスパイを摘発するため、罪名がないときの別件逮捕を「引きネタ」と呼ぶことも知りました。その引きネタ探しに2年もかけることがあるといいます。ことの善し悪しはともかくとして、何事も地道な基礎作業の積み重ねだということなんですね。
 内閣調査室、外事一課(ソ連KGB対策)、公安三課(右翼対策)、公安特別捜査隊(中核派対策)、外事一課(国際テロ班々長)、など、警部補10年で要職を渡り歩いているとのことですから、それなりに有能だったのでしょう。
この本を読むと、著者は一匹狼的な性格があまりに強く、チームで動くことは苦手だったように思われます。すると、出世も当然のことながら遅れますよね。
 公安畑の警察官の仕事ぶりの一端を垣間見る思いのした本でした。
 
(2009年2月刊。1600円+税)

2009年5月11日

現職警官「裏金」内部告発

著者 仙波 敏郎、 出版 講談社

 すごいですね。この3月に定年退職した私と同じ団塊世代の警察官が書いた本です。24歳で巡査部長となり、そのまま昇進もせずに42年間の警察官人生をまっとうしました。
 どうしてそうなったか?それは著者が警察内部で今も堂々と横行している「裏金」づくりへの加担を断ったことから、組織不適合者をさすマルトク(○の中に特)の烙印を押されたことによります。そして、2005年1月に現職警察官として初めて「裏金」を告発したことによります。いやあ、すごく勇気のいる行為でした。著者をしっかり支えた奥さん、そして、家族も偉いものです。著者は、次のように書いています。
 日本の片隅に、高卒で警察官になり、出世や私利私欲よりも当たり前の「正義」を当たり前に貫いた男が一人いたことを知ってほしい。特別な人間ではなく、権力もない人間でも、心に正義の火が灯っているかぎり出来ないことではない。そうすれば、この36年間の孤独な闘いにも一片の意味があったと信じることができる。
 なるほど、偉大な意味がありました。16年間で、署内移動もふくめて9回も異動させるほどの嫌がらせに耐えたのです。すごいです。
 警察の昇任試験は、受験者の7、8割には問題が漏れている。本当に実力だけでパスするのは、2、3割しかいない。
 捜査協力というのは、建て前は捜査協力者に支払われるお金であるが、実際にはほとんど外部へ支払われていはいない。警察官や警察職員が協力者になりすましてニセ領収書をつくり、その99%を裏金にしてきた。
 捜査本部を設置する費用として県警本部から600万円が署に送金されてきたとしたら、その半分の300万円は県警本部に裏金として戻される。
 裏金づくりの指揮官は、署では副署長であり、本部では各課の次長である。集金役には会計課長があたる。お金は、すべて現金で動き、銀行は使わない。決済を求める文書を差し出す「決済挟み(ばさみ)」にはさんで渡す。
 領収書の偽造は、会計監査のときにバレないように毎月一人3枚まで、と決まっていた。
 転勤していく署長には餞別として800万円もの大金を渡す。宇和島署では、年間1200万円ほどの裏金が作られていた。年度末に金庫をカラにしておかないとまずい。そして、署長は県警本部に戻って本部長へのお土産をとどける。その原資になった。
 すごい本です。読むと勇気が湧いてきます。
 本屋で買って読んだあと、著者からサイン入りの本を贈っていただきました。ありがとうございます。ぜひ、今後とも元気にがんばってください。
 
(2009年4月刊。1500円+税)

2009年5月 2日

疑心…隠蔽捜査3

著者 今野 敏、 出版 新潮社
 キャリア組で降格処分を受けて警察署長になった主人公が、アメリカ大統領が来るときの方面警備本部長に任命されます。本来、一署長がそんな地位につくはずがないのです。なにかの間違いだと問い合わせても、その通りだという答えしか返ってきません。何か重大な失策をやらかせて、追い落としを図る陰謀ではないのか……。
 うまいですねえ。実に気を惹く出だしです。
 警備本部には、いくつかの等級がある。最高位は、最高警備本部。国家に甚大な影響を及ぼす恐れがある事柄を警戒し、防止するためのもの。警察庁内に置かれ、本部長は警察庁長官ないし次長がつとめる。
 次に、総合警備本部。警備事案を担当する警察本部に置かれる。本部長は警視総監か道府県本部長が任命される。
 その下が、特設警備本部と特別警備本部。「特設」は国宝の保護とか群集に対する警備を扱う。本部長は警察庁警備局の警備課長が理事官。「特別」は、日米合同演習などの特別な場合に設置する。本部長は警視長が担当する。
 方面警備本部は場所を一定の区域に限定して設置する。本部長は警視正。
一番下が、管内警備本部。これは警察署長単位の警備態勢。範囲は署の管内のみ。本部長は、署長か課長。
 この本では、キャリア組の警察官僚がお互いに拮抗しながら動き回る様子が描かれ、また、下積みの刑事の苦労がそれを支えていることも明らかにしています。と同時に、キャリア組の署長がついつい「不倫」願望のような、人間らしい悩みにはまって泥沼をはいずりまわる心理状態を追い続けていますので、読み手に人生の深い淵をのぞかせる気にさせてくれます。そこらあたりの人情の機微は、見事なものです。
 アメリカの大統領を守るためのシークレットサービスが先発隊としてやってきて、日本の警察を思うように動かそうとして、あつれきが発生します。おそらく、こういうことも起きるんだろうな、と思わせる描写です。
 心理描写にも優れた警察小説として、一気に読み上げました。
(2009年4月刊。1500円+税)

2009年4月 5日

暴雪圏

著者 佐々木 譲、 出版 新潮社

 うまいものです。いつ読んでも、この著者の警察小説は迫真の出来で、ぐいぐいと読む者を惹きつけてやみません。
 咆哮する雪嵐、次々と麻痺する交通網。氷点下の密室と化したペンションに逃亡者たちが吹き寄せられた。
 最大瞬間風速32メートル。十勝平野が10年ぶりの超大型爆弾低気圧に覆われた日の午後、帯広近郊の小さな町では、いくつかの悪意がうごめいていた。暴力団組長宅襲撃犯、不倫の清算を決意した人妻、冴えない人生の終着点で職場の金を持ち出すサラリーマン……。それぞれの事情を隠した逃亡者たちがたどり着いたペンションで、恐怖の一夜の幕が開く。
 すべての交通が遮断された街に、警察官は川久保巡査部長のほかはいない。
 以上は、この本の粗筋を紹介するオビの文句です。すごいものですよ。同じ時刻に、バラバラに進行していた事件が、ついには一つにまとまり、緊迫感がつのるのです。読み始めたら、もう目を離せません。
 冬でも太陽光線の温かいなかでぬくぬくと育った九州育ちの私なんか、冬の北海道の寒さを体験したことがない身として、次のような記述は想像を絶します。
 吹雪の中で自動車が路外転落、ケガをしたドライバーがそのまま凍死したケースが10年間に3件あった。吹き溜まりで動けなくなったドライバーが車のヒーターをつけたまま夜を過ごして、一酸化中毒死というケースが2件。地吹雪の中で立ち往生した車に除雪車が突っ込んでドライバーたちが死んだという事故も1件あった。
 雪おろしなど経験したことがありませんが、これも大変きつくて危険な作業のようですね。南国に生まれ育ち、今も生活している私は、単純に考えて、南国っていいなと思います。もっとも、北国の人はスキーなどのウィンタースポーツを楽しんでいるのでしょうね。
 出会い系サイトに登録する女は、どこか歪んでいるか、病んでいるか、何かに餓えているか、どれかだ。
 そうなんでしょうね、きっと。ケータイも十分に使いこなせない私など、指をくわえて眺めるばかりの世界です。
 不倫中の人妻ならば、むしろ堂々としていた方が注意をひかない。顔を隠すから不倫なのだと分かるし、かえって顔も気になる。
 うむむ、なるほど、なるほど、そういうことですね。
これまでの著者の警察小説とは違って、警察内部の葛藤は少なく、犯人とされた、されつつある人々の内心のかっとうなどが中心に描かれています。
 
(2009年3月刊。1700円+税)

2009年3月 1日

警官の紋章

著者 佐々木 譲、 出版 角川春樹事務所

 『笑う警官』『警察庁から来た男』に続く、北海道警察シリーズ第3弾です。テレビで放映された『警官の血』も、同じ著者です。いつもながら日本警察の実態を敢然とえぐり取り、ストーリーもよくできていると感心しながら読んでいます。
 テレビで放映された『警官の血』をビデオで見ました。北大の学生運動にスパイとして送り込まれた潜入捜査官が、精神を病んでいく姿は、現実を反映したものだと思います。まともな人には、スパイ活動なんてとてもやれないですよね。
 舞台背景は2008年洞爺湖サミットです。世界の要人が集まり、世間注目の中で、目立ちたがり屋の女性大臣がストーカー男に狙われています。でも、本筋は警備のために東京からやってきた男に狙いがあり、そのことで北海道警に恥をかかせようというのです。自殺させられた父の仇を子がとろうというわけです。
 暴力団との係わりが深い、北海道のホテル・観光施設チェーンが登場します。この本では田森観光となていますが、実名はよく似ていますよね。ええーっ、ホテルまで暴力団親交者だったのか……。日本は、上から下まで暴力団にひどく汚染されていますよね。つくづく、そう思います。これもまた、読み応え十分の警察小説でした。

(2009年1月刊。1500円+税)

2009年2月15日

警視庁捜査二課

著者 萩生田 勝、 出版社 講談社

 まずは業界用語を紹介します。
 起番は、おきばん。宿直のとき、詰めていること。
 猛者は、もさ。スリ係。
 本庁は、警察庁のこと。
 本部は、桜田門にある警視庁のこと。
 司法関係の機関のうち、もっとも低能力な集団は警察である。なかでも、特筆すべき超低能力集団が刑事だ。この記述は、多分に反語的なものであり、だけど集団の力はすごいものがあることが何度となく語られています。
刑事の楽しみであり、美学は、現場で一瞬にして判断すること。ところが、いま、現場に行きたがらない刑事が増えている。若手が現場に出ない。経験豊富なベテランがいなくなる。この二つだけでも警察の捜査能力の低下が心配だ。
 刑事課のなかでは、隣の係は完全に敵だ。ライバル同士なんていう甘い関係ではない。捜査員同士の競争意識は、ケタ違いの熾烈なものだ。
 大企業のトップや高級官僚にいる人間は、地位やプライドが邪魔をして容易には落ちない。落ちるのは、ホネと取調官の人間としての次元がピタリと合ったとき。
 特捜部と違う捜査二課の強みは、人海作戦にある。ただし、そのとき、小さな集団の結束がもっとも大切だ。ただし、そのとき粘りと、証拠品を飽きるほど見つめる態度が不可欠だ。それは、そうなんでしょうね。
 取り調べで大切なのは、調べにあたる刑事それぞれの人格だ。人生そのものの経験が求められる。人生経験の不足を助けてくれるものとして、読書がある。本を読んでも人格形成はできる。まったくそのとおりです。
 警察署の内部にも、収賄のおこぼれにあずかりながら、いけしゃあしゃあと生き残っている幹部が実はかなりいる。いやはや、これは困ったことです。
 警察署内部のことがかなり赤裸々に語られていて、面白く読めました。
(2008年12月刊。1600円+税)

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