弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

司法

2015年7月12日

北朝鮮とは何か

                                (霧山昴)
著者  小倉 紀蔵 、 出版  藤原書店

 かなり難解な本です。でも、北朝鮮という国を知りたくて読みとおしました。
 歴史認識をめぐる安倍首相や橋下・大阪市長の言動は、正しくはアクションではなく、リアクションである。これを思考停止と言わずして、何と言えばいいのだろうか・・・。
 朝鮮は、植民地時代に近代化した。日本は収奪をしたが、近代化もした。
 慰安婦問題について、橋下市長の言うように日本だけでなく、西洋列強の多くが似たような女性蹂躙をしたのは事実だ。そのことを明確にするためにも、日本は世界に先駆けてこのことを謝罪し、解決すべきなのである。そのうえで、西洋諸国に対して同じことを促せばいい。 なーるほど、と私は思いました。
 アメリカには、確固たる対北朝鮮政策はない。対話と圧力と言っているが、実際には、論理的な一貫性のない、関与と無視のあいだを右往左往しているだけのこと。
 日本が北朝鮮との関係を事実上絶ってしまったのは、最悪の選択でしかない。
北朝鮮は崩壊するどころか、核開発をさらにすすめ、今や事実上の核保有国となった。
 「張成沢に幻想を抱く人々」が北朝鮮の労働党内そして広く国内に無視できないほどいた。張成沢氏以外の人々の官僚主義や事なかれ主義が張成沢氏の能動的な冒険主義を生んだ。
 張成沢氏の粛清・処刑を激怒している中国首脳部は、怒りと不信感をかきたてている。
 いま、北朝鮮が中国式の改革・解放を無秩序にしたら、その美意識は一気に崩壊してしまうだろう。
 とても難解な本なのですが、北朝鮮という国の思考方法が少しばかり分かった気がしました。
(2015年3月刊。2600円+税)

2015年7月11日

日本国憲法、大阪おばちゃん語訳

                             (霧山昴)
著者  谷口 真由美 、 出版  文芸春秋

 関西弁には、いつも圧倒されてしまいます。私が48年前に大学に入って東京で寮生活をはじめたとき、東北弁も九州弁もなるべく口に出さずいじいじしていたのに、関西弁だけは、モロ出しで、何も悪いことあらへんやんかといった調子でした。自信たっぷりで話されると、それだけで圧倒されてしまいます。
 憲法前文は、大阪弁で言うと、次のようになります。
 人間っていうのは、お互い信頼しあえるって、理想かもしれませんけれど、ホンマにそう思ってますねん。せやさかい、他の国のお人たちも同じように平和が好きちゃうかって信じてますねん。そう信じることで、世界の中で私らの安全と生存を確保しようと決めましてん。せやからな、全世界の人たちがみんな、怖い思いすることとか、飢えたりすることからさいならして、平和に生きていく権利があるって本気で思ってますさかいに、そのことも確認させてな。
 うむむ、なんだかスゴイことですね、これって・・・!!?
 「集団的自衛権」っちゅうのは、ヤンキーのケンカみたいなモンで、仲良しのツレがやられて、ツレに「助けてや」といわれたら、ホンマはツレのほうが間違ったかもしれんケンカとかツレのほうが明らかにいじめてる側やのにとか関係なく、「俺、アイツのツレやから」という理由からケンカにいくようなもんですわ。ツレがめっちゃ悪いヤツやったら、どないすんねん、というのはおっ飛ばすんですね。
 こうやって大阪弁で読みとしてみると、今の憲法は本当にいいことが定められています。
 自民・公明は維新を取り込んで、7月半ばにも衆議院で強行採決しようとしています。断じて許せません。
著者には、東京の日弁連会館で話を聞きましたが、本当に歯切れのいい大阪のおばちゃんです。大学で教えていて専門は国際人権法ということです。ホンマに学者かいな、とそのとき思ったことでした・・・。
(2014年12月刊。1100円+税)

2015年6月26日

ライブ講義・集団的自衛権

                              (霧山昴)
著者  水島 朝穂 、 出版  岩波書店

 この6月4日に開かれた衆議院の憲法審査会で、憲法学者が三人そろって安保法制法案は憲法違反だと断言したので、自民・公明の安倍政権は言い訳に終始するようになりました。
 合憲だという憲法学者もたくさんいる、そう言って安倍政権が名前をあげたのは、わずかに3人のみ。しようもない、おじさんたちが登場しただけです。すると、今度は学者が決めるのではない、最高裁が判断するのだと逃げます。では、最高裁が議員定数の不均衡を是正しろと言ったとき、政府は従ったでしょうか・・・。多くの学者が憲法違反と断言し、最高裁の言うことには従わないという権力者は、あまりにも立憲主義を無視しすぎです。
著者の語りは、いつものことながら明快です。
市民には、素朴な「疑」の心を大切にして問い続けること、「偽装」を見抜く知恵と「技」を磨くことが求められている。「疑の技」でもっとも大切なことは、「忘れない」ということ。
 著者は、佐藤優や木村草太の主張は誤りだとしています。
この二人は、昨年7月1日の閣議決定は、個別的自衛権の範囲をこえるものではないとしているが、間違いだ。過小評価ないし、過度の楽観論である。
 ある武力行使が、個別的自衛権にあたるか集団的自衛権にあたるかは、二者択一の関係にあり、双方にあたるということはありえない。
 徴兵制について、安倍首相は、「憲法上ありえない」と断言している。しかし、この言葉は、どこまで信用できるものなのか?集団的自衛権の行使は憲法解釈上許されないとして来た自民党政府の見解を一変させてしまった安倍首相の言葉を信用することは出来ません。あのときとは社会環境が変わったから・・・、と言って変更するのは簡単なことです。
 いま、むしろ日本は北朝鮮を脅している。「平和ボケ」より「軍事中毒」のほうがはるかに有害なのだ。私も本当に、そのとおりだと思います。
 いま、韓国や中国に観光旅行に行く日本人が激減しているそうです。なんとなく「怖い」という気分があるからです。でも、韓国や中国からは大量の観光客が来ています。日本は平和な国だと思って信頼しきっているのです。このギャップを、私たち日本人は一刻も早く解消する必要があると思います。
 自民・公明の安倍政権が、つくり出した「なんとなく、韓国も、中国も怖い」という皮膚感覚を一掃すれば、今の安保法制法案は、すぐにも吹っとんでしまうと思います。そして、平和憲法の意義を高らかに全世界へ発信すべきなのです。
(2015年4月刊。1800円+税)

2015年6月25日

裁判に尊厳を懸ける

                                (霧山昴)
著者  大川 真郎 、 出版  日本評論社

 心が激しく揺さぶられる思いがしました。とてもいい本です。司法関係者には一人でも多く読んでもらいたいと思いました。
 冒頭で紹介される、和歌山大学生「公務執行妨害」事件は圧巻です。何より、書き出しがうまい。読ませます。判決宣告人言い渡そうとした裁判長が途中で言葉に詰まり、涙があふれ出したというのです。1976年11月25日午後6時すぎの和歌山地裁法廷での出来事です。
 この日、弁護人が午前1時から詳細に無罪弁論をし、被告人となった元大学生二人が最終意見陳述をした後のことです。よほど、裁判長は二人の言葉に心打たれたのでしょう。
 事件が発生したのは1966年(昭和41年)10月です。私がまだ高校3年生、受験勉強のラスト・スパートをかけていたころ、つまり、私が大学に入る前のことです。
 いったい二人は何をしたというのか。要するに何もしていないのです。
 夜中、3人の巡査が勤務時間外に上司の自宅で飲食し、酒に酔って帰宅しようとしていると、電柱に3人の学生が「ベトナム戦争反対」の張り紙をしているのを発見した。3人の巡査は、いきなり追いかけ、そのうちの学生1人をつかまえ、近くの派出所に連行した。すると、つかまった学生の釈放を求めて大勢の学生が集まってきた。その学生たちに向かって、一人の巡査が「アホンダラ」と叫んだため、学生たちは激しく抗議した。警察官もパトカーで応援に駆けつけ、巡査を救出して本署(和歌山西署)に逃げ帰ろうとしたあたりで、その場にいた学生二人が警察官に捕まった。この二人の学生は、日ごろからリーダーとして警察に目をつけられていたのだった。
学生二人は警察官たちから暴行を加えられた被害者なのに、逆に暴力を振るったとして、「公務執行妨害」罪で起訴された。
 それから裁判は10年かかった。なんということでしょう。わずか1時間ほどの出来事のために、警察官たちが口裏をあわせて嘘の証言をくり返したことから、無罪の立証に10年もの歳月を要したのです。証人は21人。
 著者は司法修習生として裁判を傍聴し、のちに弁護人となったのでした。
 二人の「被告人」の最終陳述は、胸をうつものがあります。自然に涙があふれ出てきます。
 「この10年間は、苦しみの10年間であったと同時に、友情と連帯というかけがえのない貴重なものを得た期間でもありました」
 このとき、年老いた母親、そして就学前の子どもたちを法廷に来てもらっていたそうです。これって、なかなか出来ることではありませんよね・・・。
 裁判長は、無罪を言い渡したあと、こう言った。
 「裁判所としても、裁判がこのように長くかかったことについては、被告人の諸君に対して、申し訳なく思っています。・・・これからの人生に向かって、どうか幸せな御家庭を築いてください」
 検察官は控訴せず、無罪は一審で確定した。捜査当局は、一言の謝罪もなしに、一つの事件を終了させた。
この二人は、今もお元気なのでしょうか。著者によって、久しく忘れられていた事件に光が当てられました。この二人が、必ずや今もお元気に活動しておられることと祈念します。
 7話からなる本の一話の紹介にスペースを割きすぎました。続く2話の杉山彬(あきら)弁護士の接見妨害事件のとりくみも驚嘆すべきものです。弁護人が面会切符をもらわないと被告人に自由に面会できないという、今では考えられない制限を受けていた当時の不屈のたたかいの記録です。ぜひ、今の若手弁護士にも知ってほしいと思います。
 著者の本は、単行本としては4冊目のようです。ますます文章も洗練され、読みやすくなっています。いろんな点で、私の見習うべき先輩として敬愛しています。今後、ますますの健筆を期待します。
(2015年6月刊。1700円+税)

2015年6月 5日

弁護士・経営ノート

                               (霧山昴)
著者  弁護士業務研究所 、 出版  レクシスネクシス・ジャパン

 原和良弁護士(佐賀出身です)が監修している、弁護士実務にとても役立つ本です。
 法律事務所のための報酬獲得力の強化書というのがサブタイトルですから、経営危機から依然として脱出できていない私は、すぐに飛びつきました。
 とても役立つノウ・ハウが満載の本です。そして、それは小手先のハウツーものではありません。弁護士業務の奥深い理念の意義を強調していて、大いに反省もさせられました。
 ベンラボ(一般社団法人弁護士業務研究所)は、時代の逆境に立ち向かい弁護士に課せられた本来のミッションを担う弁護士を世に輩出することを目的につくられた共同研究組織。
 弁護士は、一般的に経済的な苦境にある。しかし、この現状が長く続くわけではない。困難な中でも、初心を忘れず、弱者に寄り添い、かつ楽天的に活躍する活動家がたくさん生まれることを大いに期待したい。
 私も、まったく同感です。
国税庁の統計によると、弁護士の26%が赤字だ(2013年4月)。
 弁護士の7割か赤字が所得が500万円以下だという統計もある。
 2006年と2010年を比較すると、売上げベースで3620万円が3340万円に、所得ベースで1748万円が1470万円に減少している。
私の事務所も同じです。そこで、どうしたらよいか。それが問題です。
 弁護士は、食っていければいいという経営方針では、食っていけない。
 多くの法律事務所では、事務所理念に経営という視点が欠落している。自分の強みは何か、というところに意識をフォーカスし(焦点をあて)、その強みで勝負しなければ、生きていけるはずがない。
 私の事務所は「愛ある事務所」をモットーとし、草の根からの民主主義を支え実践することを理念としています。
 経営戦略は、自分の強みと機会を見すえて、どこに力を集中するのかを考えること。自分に不得意なもの、非効率的なものは思いきって捨てる。
 たとえば、今の私は会社法をめぐる相談が来たら、ほかの弁護士をすぐに紹介してまわします。会社法は、私の頭のなかにははいってこないからです。
交流と業務の拡大の基本は、相手の関心、ニーズをよく聞くこと、自分の商品を売りつけるのではなく、相手の困っていることに自分の専門性や人脈で何か手助けをできないか考えて、提供すること。聞き上手に徹すること、ギブに徹することが大切だ。
 労務マネジメントにおいては、自分と違うもの、異論と多様性とを心から受け入れて感謝する気持ちを持ち続け、なおも粘り強く経営理念を貫き続けるという不断の挑戦が必要だ。
皮肉なことに、お金を追い求めれば追い求めるほど、お金は逃げていく。
 これまでの常識だった、「弁護士は、社会正義の実現に向け、志高く仕事をしていれば、待っていても相談が来る」という時代は終わった。
 ホームページをみて相談に来る人が増えている。ホームページをつくるのなら、専門に特化した情報にしぼったホームページをつくるしかない。
 たしかに、そう言えます。ですから、私のブログは毎日更新を目ざしています。
 弁護士の役割は、依頼者を幸せにするためのお手伝いであり、その手段として法的紛争の解決を目ざすということ。
 労働事件であろうと何であろうと、無料であること、安いことが必ずしも依頼者のニーズではない。適正な報酬を、きちんともらうことは、とても大切なこと。弁護士をしていく上で、次の三つを重視している。
 その一は、クライアントに安心感を与え、苦しみから解放する。
 その二は、関係者の感情を重視する。
 その三は、仕事を楽しみ、弁護士自身の精神的不調を防ぐ。
 弁護士として、依頼者に対して次のように言って説得する。
 「楽観的に考えても、悲観的に考えても、たいして結果は変わらない。悲観的に考える必要がないのだったら、どうせだったら楽観的に考えてほしい」
 本当に、私もそう思います。くよくよしたって始まらないのです。昨日のことは身体自身が忘れないけれど、せめて頭のなかだけは抜きたいものですよね。
 依頼者の前では、カラ元気でもいいから、陽気で元気よく行動することが大切だ。
 弁護士にとって、とても実践的であり、かつ示唆に富んだ本です。強く一読をおすすめします。
(2015年5月刊。3000円+税)

2015年5月12日

伊藤真が問う日本国憲法の真意

                                (霧山昴)
著者  伊藤真、浦部法穂、水島朝穂ほか 、 出版  日本評論社

 大変分かりやすく、知的刺激にみちた憲法論が展開されている本です。
 はじめに伊藤真弁護士が問題提起をして、それに3人の憲法学者がこたえて自説を述べていくという形式です。それぞれ議論が発展していくのが面白い趣向です。
 かつての日本(戦前の日本)は、立憲政友会とか立憲民政党など、立憲主義を標榜する政党があった。ところが、いま、「立憲主義」の思想、視点が日本社会に欠けている。
 立憲主義は多数派に歯止めをかけること。戦前の日本やヒトラー・ドイツを見たら、多数派が正しいとは限らないことは明らか。人間は、ムード、情報操作、目先の利益に騙されるという不完全性がある。韓国・台湾の憲法にも、日本と同じく、国民の憲法遵守・尊重を求める規定はない。
 8月15日を「終戦」記念日とするのは問題があると指摘されています。目が開かれる思いでした。8月15日は、天皇ヒロヒトが臣民に向かって放送で敗戦を伝えただけのこと。日本政府が連合国側と戦艦ミズーリの甲板上で降伏文書に調印したのは9月2日。したがって、米・英などの国々は9月2日を「対日戦勝記念日」としている。
 昨年7月1日の閣議決定は、現行憲法の下で集団的自衛権の行使は認められないとしてきた歴代政権の憲法解釈を変更した。これに対して、最近の歴代内閣法制局長官は反対している。
この閣議決定のもとで、日本の軍需産業は色めき立っている。日本の「死の商人」が動き出したのです。怖いです。恐ろしいことです。いよいよ日本もテロのターゲットになります。防衛省は、防衛装備庁という1800人からなる外局を設置した。国を挙げて「死の商人」を応援しようというのです。
 安倍内閣は、金もうけのために武器の生産・輸出、原発の再稼働・輸出、そしてカジノを国内でやろうとしています。本当に許せません。国民生活の安定・平和なんて、まるで考えていません。金もうけが全ての世の中をつくり出したいようです。品性があまりに下劣です。
 安倍首相がアメリカの連邦議会で演説した何日か後に、アメリカから17機ものオスプレイを日本が買うことになったと報道されました。3600億円も支払われます。社会保障をほぼ同額(3900億円)削減したうえでのことです。本当に許せません。そのうえ、この欠陥機オスプレイを東京の横田基地に10機も配備するそうです。日本人を馬鹿にしています。
 日本は戦前、ずっとずっと戦争してきました。「大東亜共栄圏」と称して侵略戦争を展開し、多くの罪なき人々を殺傷し、逆に日本人も多くが殺傷されてしまいました。ところで、戦前というのは明治元年から71年間です。戦後も既に70年となりました。今では、ジャパン・ブランドは戦争しない国・ニッポンなのです。ところが、安倍政権は、この貴重な、実績ある平和ブランドを戦争する国・ニッポンに塗り変えようとしています。許せません。
 安倍首相の言う「積極的平和主義」というのは、「武力行使に積極的」というものです。戦前の日本も、「平和を守る」ために戦争を仕掛けていったのです。安倍首相の嘘にだまされてはいけません。
 ホルムズ海洋の機雷掃海に自衛隊を出すというのは、イランに攻めこむということと同義である。親日国・イランが当惑してしまうようなことを安倍首相は国会で高言している。
 安倍首相の言動こそアジアの安全を脅かしている最大の脅威である。
まことにそのとおりだと思います。法学館憲法研究所の積極果敢な憲法シシリーズに対して、心より敬意を表します。
(2015年4月刊。1500円+税)

2015年5月 6日

10代の憲法な毎日

                               (霧山昴)
著者  伊藤 真 、 出版  岩波ジュニア新書

 憲法改正のための国民投票は18歳からできるようになります。
 これは当然のことでもあります。なぜなら、徴兵制になるかどうかはともかくとして、日本人が戦場へ駆り出されるとき、その主力の兵士は20歳以上ではなく、18歳以上であることは間違いありません。
 アフリカの戦場では10代の兵士が珍しくなく、14歳にして部隊の司令官だ人間がいるというのです。恐ろしい現実です。
ということは、10代に憲法とは何なのかを知ってもらう必要があります。この本は、そんな思いで書かれていますので、とても分かりやすい内容になっています。さすが、だと感嘆しました。10代ですから、はじまりは学校生活の不満を問題とします。
集団や社会のために個人が犠牲になる社会であってはならない。
 高校生の疑問に対して著者が答えていくのですが、実に明快な答えです。
 人権というのは、元々は、人間として正しいということ、だから、権利を主張するときには、なぜその権利は正しいのかについて、みんなに分かってもらうことが大切になる。
 住民投票とか、直接民主主義には、変な誘導がなされたり、世論操作の危険性がある。
ドイツでは、ヒトラーが演説の巧みさなどから国民の圧倒的な支持を集め、圧倒的な支持を集め、ナチ党の独裁を許し、ユダヤ人の大量虐殺などの暴走につながった。だから、何でも住民投票で決められたらいいということにはならない。
 今こそ、大いに憲法について語りましょうと伊藤弁護士は若い人に呼びかけています。私も、まったく同感です。憲法は古い、死んだものではありません。きわめて新しい内容をもっているのです。ぜひ10代のあなたに読んでほしい新書です。
(2014年11月刊。840円+税)

2015年4月23日

弁護士倫理の勘所

                                 (霧山昴)
著者  官澤 里美 、 出版  第一法規

 著者は男性弁護士です。名前から女性と間違われそうですが、中年の男性弁護士です。
 幼いころの顔写真が本書に紹介されていますが、いまや立派な壮年弁護士です。
 私より一まわり若い、現役バリバリの弁護士でもあります。
 著書第二弾は、弁護士倫理について、実践的に解説していて、とても役に立つ内容となっています。私自身も綱紀委員会での議論に参加するようになり、弁護士倫理を実践的に勉強していますので、初心を学ぶうえでも勉強になりました。
「ちょっと一言」コラムによる解説があり、また、「イソ弁」が悩むような状況での対話もあって、とても身近に考えさせられる仕組みの本になっています。
 著者は、農家として12代目ということなのですが、本当でしょうか・・・。日本人のルーツは単純な「百姓」だと、12代もさかのぼることは不可能だと思うのですが・・・。
 会社の社長が死に際に、長年の不倫を告白したという話が紹介されています。墓場までもっていってほしい秘密もあるのですよね・・・。
 相談を受ける前に「利益相反チェック」がますます必要になっています。そのためには、住所そして氏名をフルネームで言ってもらう必要もあります。案外、それに抵抗する人もいるので困りますが・・・。
事件解決の依頼を受ける前に難しいのは、見通しについて何と言うか、です。
 甘い見通しを言うのは禁物。それは悪い結果が出たときに責められることになる。しかし、厳しすぎる見通しを言うのも考えもの。あまりに厳しく言うと、それなら、もうやめておこうということになりがちです。そうすると、もらえるはずの着手金・報酬もいただけません。
 弁護士生活30年以上、そして弁護士倫理を10年以上、ロースクールで教えてきた体験に基づいた本ですので、大変わかりやすく、しかも実践的な本です。
 若手弁護士には、ぜひとも読んでほしいと思います。
(2015年4月刊。2500円+税)

2015年4月15日

刑務所改革


著者  沢登 文治 、 出版  集英社新書

 受刑者の更生を重視することで社会の負担は軽くなる。そのための方策が提案されています。弁護士生活40年をこえる私は大賛成です。1000円ほどの万引き犯を常習だからといって1年も刑務所に入れていていいはずがありません。もっと税金の賢いつかい方があるはずです。
 日本の刑務所の実情を知ったあと、著者はアメリカに出かけます。自己責任論の強いアメリカは、悪いことをする奴は刑務所へ入れてしまえという法律が出来ています。刑罰がとんでもなく重罰化しているのです。
 カリフォルニア州には囚人が10万人以上もいる。そして刑務所は過剰収容となった。それは、犯罪に対する刑罰化が原因だ。「三振法」。軽微な罪でも、3回くり返したら懲役25年から終身刑となる。
 その結果、2008年にはカリフォルニア州内の刑務所の収容定員は8万人なのに、17万人以上の受刑者をかかえてしまった。そのため、裁判所は、「刑務所があくまで自宅待機」という指示を出すことになった。2005年には23万人以上が、刑務所に入らないことになった。まさかの逆転現象ですね。
 それで、どうしたのか。あのシュワルツネッガー知事は、刑務所改革にのり出した。そして、犯罪傾向を除去するのを基本原則として。犯罪者は刑務所に収容すればそれでよいという短絡的な発想を修正し、収容は受刑者への矯正教育を行い、更生する社会復帰を目ざす前提であり、単なる懲らしめや罰としてではない、とした。矯正教育の一環として高校の卒業資格を取得できる教科指導を実施する。また、大学の講義を受講できるようにする。
 そして、出所後に入れる「リエントリー施設」を設けた。
そして、日本の松山刑務所大井造船作業場の実践が紹介されています。
 日本でも、やればできるんだということです。恥ずかしながら、私は、こんな作業場があるのをまったく知りませんでした。
作業員(囚人)33人が刑務官13人と同じ建物で寝泊まりしている。ここには、塀もなければ鉄格子もない。一般工員と一緒に造船所で働いている。脱走しようと思えば簡単。でも、過去50年間に脱走を図ったのは19人だけ。出所後の再犯率は15%(今はゼロ)。
 何回も刑務所に閉じ込めたからといって、より深く反省し、再犯しないということにはならない。再犯率は50%をこえる。
 日本の刑務所の過剰収容は現在、かなり改善された。刑事施設の収容者は6万7千人ほど、収容率は既決施設で82%、裁判中(未決)で40%。定員内におさまっている。
 日本の受刑者と職員の比率は、諸外国に比べて、きわめて高い。1人の職員が4.5人の受刑者を相手にする。3交代制なので、実際には、1人で13.4人の収容者をみている。
 職員のストレスは想像以上にきびしい。
 名古屋刑務所の事件の実際が、この本の冒頭で報告されています。もちろん、あってはいけない犯罪行為なのですが、それに至る職員側の苦労も理解できました。
 私も刑事弁護人として何回となく苦労させられました。人格障害の被告人にあたると、我が身の安全まで心配しないといけないのです。
 とても実践的な刑務所改革についての問題提起の本です。弁護士として必読文献だと思いました。
(2015年3月刊。760円+税)

2015年4月 7日

「検証・司法の危機」


著者  鷲野 忠雄 、 出版  日本評論社

 1969年から72年にかけての司法をとりまく動きを紹介しコメントした本です。ということは、私が司法試験に合格し、司法修習生になった年のことです。つまり私たち司法修習26期というのは司法反動攻勢の直接に司法研修所に入ったことになります。
 東大闘争(紛争)をはじめとする全国の学園闘争(紛争)の体験者が本格的に大量に司法研修所に入ってきました。その直前には司法研修所の卒業式がなくなり、阪口徳雄修習生が罷免されたりもしました。
 私たちの期でも、司法研修所当局と「団交」しました。出てきたのは、後に最高裁長官になる草葉良八事務局長でした。のらりくらりとした官僚答弁をしていたことだけは、今も記憶があります。
 著者は、この当時、青年法律家協会(青法協)の本部事務局長をしていた弁護士です。
 青法協は、現行憲法が公布・施行されてからわずか7年後の1954年4月、再軍備と憲法改悪に向けた「逆コース」の動きが具体化するなかで、これに反対し、学徒動員の体験を有する若く学者・弁護士らが中心となって、平和と民主主義を守ることを目的に創立された。
 ところが、日本安保条約下の日米同盟の変容にともない、憲法の空洞化と改憲抗争の具体化が進行する過程で、憲法を敵視し、改憲を目ざす勢力から、青法協に対して、「アカ攻撃」が加えられた。その目的や活動を一定の政治的色彩にそめあげ、青法協に加入する裁判官に対して「偏向」宣伝をあびせ、反憲法的な攻撃の標的にした。
 1967年10月、雑誌『全貌』が「裁判所の共産党員」と題する特集を組んだ。最高裁事務総局(寺田治郞局長)は、資料整備費をつかって170冊も購入し、全国の裁判所に配布した。1969年(昭和44年)、佐藤栄作首相は、石田和外を最高裁判長官に任命した。石田和外は戦後の憲法下で、裁判をした経験をもたなかった。
 1969年3月、西郷吉之助法務大臣は東京地裁の無罪判決に憤慨して、次のように述べた。
 「あそこ(裁判所)だけは手を出せないが、何らかの歯止めが必要だ。裁判官が条例を無視する世の中だからね。国会では面倒をみているんだから、たまにはお返しがあっていいんじゃないか・・・」
 法務大臣の発言とは思えない内容です。あまりにも三権分立を無視しています。
 そのころまで、裁判官になる司法修習生のうち20名以上は青法協の会員だった。全国の裁判官2000名のうち、1割以上の300名が青法協の会員だった。
 青法協攻撃が激しくなったなかで、のちの最高裁長官(町田顕)や検事総長(原田明夫)が青法協を脱会していったのでした。その結果、モノを言う勇気のなくなった裁判官ばかりになってしまったのです。
 福井地裁の原発操業差止判決は、久しぶりに、本当に大変久しぶりに、裁判所にも勇気のある裁判官がいることを証明してくれました。
 いま、私は、1972年4月からの26期司法修習生の青法協活動について、読みものとして再現しようとしているところです。
 公選法の権威としても名高い著者です。ますますのご活躍を心より期待しています。
(2015年3月刊。2200円+税)
 毎朝、雨戸を開けるのが楽しみです。とてもカラフルな光景を見ると、心が浮き浮きしてきます。今日も一日、いいことありそうだなと思います。赤、黄、橙、ピンクと色とりどりのチューリップの花です。雨にうたれて少し散りかかりました。近くには、濃い赤紫色のクリスマスローズの花も競っています。
 早くもアイリスの白と黄の花が、すくっと伸びて咲いています。ハナズオンの紫色の小粒の花も・・・。
 アスパラガスが伸びてきました。電子レンジでチンをして、春の香りをいただきます。
 ウグイスなど、たくさんの小鳥が元気に鳴きかわし、春本番です。

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