弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年12月 6日

「空白の日本史」

日本史(平安時代)


(霧山昴)
著者 本郷 和人 、 出版 扶桑社新書

飲食店の店頭に盛り塩をしているのは、中国の後宮にルーツがある。中国の皇帝が後宮を訪問するとき、たくさんの女性の部屋の前を牛車に乗って移動する。その牛車を止めるため、牛の好きな塩を盛っておくと、塩をなめるために牛が立ち止まり、牛車が止まる。すると、皇帝は、せっかくなので、この部屋に寄ろうということになる。そのための盛り塩だ。
うひゃあ、知りませんでした...。
戦国時代の女性の肖像画は、だいたい立膝をして、ゆったりとした衣服を着ている。
日本は、おそらく世界でいちばん豊かな歴史史料が残っている国だ。
日本では、和歌のメインテーマは「恋」。男性だけでなく、女性も高い教養をもっているので、好きな相手に和歌を送りあうという文化が発展した。ここに中国との大きな違いがある。
平安時代の日本では、恋愛をしている人ほど、尊敬される風潮さえあった。恋愛が盛んな男女をさす言葉に「色好み」というものがある。現代ではマイナスにとられがちだが、平安時代には、「恋愛をしっかり楽しんでいる人」とか「気持ちに余裕のある大人っぽい人」として、プラスの評価を受けていた。その一例が和泉式部。
平安時代そして鎌倉時代は、男女の恋愛について、いたっておおらかだった。
『源氏物語』に登場する「源典侍」(げんのないしのすけ)という女性は、大層な色好みの女性で、天皇との関係もあるのに、弟である光源氏とも付きあう。さらに、夫のような存在もいる。
鎌倉時代の『とはずがたり』は後深草院につとめていた二条さんという女性の書いた日記。この二条さんは、三人の皇子に愛されている。二条の生んだ娘は、いったい誰の子か分からないけれど、西園寺という貴族がひきとって育てた。この時代は、自分の母が誰なのか分からないこともよく起きていた。
そして、江戸時代の農村も性に対しては非常におおらかだった。その一例が「若者小屋」の存在だ。要するに、乱交が公認されていたのだ。
宮本常一の『土佐源氏』も、現代日本社会では考えられないほど、野放国な戦前の日本の農村社会における性のあり方が延々と紹介されている。
私は、これが日本社会の現実だと弁護士生活46年の体験で痛感します。この点も明らかにしている貴重な新書です。
(2020年1月刊。880円+税)

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