弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年9月13日

憧憬の眼差

人間・司法


(霧山昴)
著者 庭山 正一郎 、 出版 デジプロ

敬愛する先輩弁護士による、目をみはるばかりの、公演のための稽古中の俳優たちの写真です。
その出来ばえは、アマチュア写真家の域をはるかに超えていて、もうアマだとかプロだとか区別する意味がありません。ともかく、役者の表情が生き生きしているのに、ひたすら圧倒されてしまいます。しかも、そのキャプション(説明)がまたすばらしい。一緒に観劇しているような臨場感があります。
おいおい、こんな迫力ある写真をどうやって撮ったんだよ。「しっしっ」うるさいぞと注意されたんじゃないの...、思わず先輩に失礼な声をかけたくなるほど、役者の表情を真正面から、そして、ときに横顔をとらえています。
いやはや、これは最後方の観客席にいたら絶対に拝めないレベルです。山田洋次監督の撮った歌舞伎の映画をみている感がありました。ぐぐっと、カメラがせり出して撮るものですから、なまじの観客席にいるより、よほど迫真の舞台観劇ができるのです。
もちろん、実際に観客席にいたほうが、実のところ感動は何倍も深いとは思いますが...。
著者は5年ほど前に浅利慶太と知りあいになり、舞台稽古の見学を許され、さらには、自由に写真撮影することを認められたのでした。したがって、この写真はすべて公演稽古であって、本番そのものではありません。
劇は「思い出を売る男」、「オンディーヌ」、「アンチゴーヌ」、「アンドロマック」、「この生命、誰のもの」、「ミュージカル李香蘭」、「ミュージカル、ユタと不思議な仲間たち」、「夢から醒めた夢」です。
キャプションのついでに、著者が法廷で警視庁公安部の捜査官を尋問した話が紹介されています。鬼も黙ると言われた猛者(もさ)に自白を迫られたら、身に覚えがなくても自白してしまうだろうとされつつ、最後まで否認しとおした女性は警察署長の娘だったというのも腑に落ちました。「怖そうなおっさんも他愛のない一人の人間でしかないことを、彼女は自宅に遊びに来る警官をとおして子どものころからよく知っていたから」と書かれています。まことに、そのとおりなんですよね...。
大変すばらしい写真集、ありがとうございました。ますますのご活躍を祈念します。
(2020年9月刊。自費出版)

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