弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年9月11日

「不戦」 2018春季号

アメリカ・社会


(霧山昴)
著者 不戦兵士・市民の会 、 出版 同

ベテランズ・フォー・ピース(平和を求める元軍人の会)は1985年にアメリカで設立された国際的な平和団体。会員8000人で、オノ・ヨーコやオリバー・ストーン映画監督なども参加している。日本にも支部があり、武井由起子弁護士(東京)が事務局をつとめている。日本の不戦兵士の会は1988年に設立された(今は、「不戦兵士・市民の会」)。
この二つの団体が2017年11月25日に早稲田大学キャンパスで開催した講演会の内容を冊子にしたものです。イラク戦争に従軍したアメリカ兵としての体験、そして戦前・戦中の日本軍の過酷きわまりない話が報告されています。
元アメリカ海兵隊員は、愛国心にあおられて海兵隊に入り、2003年にはイラクの最前線にいた。テロリストと戦ってこいと言われて、その任務で戦地に来たのに、実際に自分がやっていることこそがテロ行為ではないかと疑うに至った。イラクの人々にとって、テロリストとはアメリカ兵である自分自身だった。
アメリカでは6000億ドルがペンタゴン(国防総省)が吸いとっている。そして、それは軍産複合体という、ボーイング社やロッキード・マーチン社に流れている。ところが、300億ドルもあれば、世界中から飢餓を絶滅させることができる。戦争という手段をとらず、むしろ国と国との違いを何とか平和的に架け橋をしていけば、きっと本当の平和が築けるはずだ。
元アメリカ海兵隊員は、このように言ったうえで、日本は、アメリカの植民地になっている、日本の憲法9条は、世界に誇るすばらしい憲法だ、と断言したのです。
元自衛隊員は、海上自衛隊の3等海佐としてアメリカのジブチ基地に派遣された。現地に行ってみると、あれ、自衛隊はおかしいなと考え込んだ。現地の人々は今日も家族と一緒にパンが食べられる、これがハッピーなんだという。日本では、みんなハッピーではない。ジブチにこそ、人間本来の豊かさ、幸せがあることに気がつき、55歳定年の9年前に46歳で自衛隊を退職し、それからは農業を営んでいるとのこと。
PTSDは治療して治るものではない。一生、かかえていくもの。PTSDでアメリカでは元兵隊が1日平均20人も自殺している。戦争で亡くなるより、自らの命を絶つ兵士のほうがずっと多い。ところが、このPTSDとのつきあいを覚えたら、PTG(心的外傷後成長)になる。Gは成長の意味。
PTSDの治療法の一つとして、「コンバット・ペーパー」なるものがある。着ていた軍服をチョキチョキと細かく刻む。そして出来た布屑を水につけて回しながらパルプにし、和紙のように紙をすく。この作業を通じて、精神的な立ち直りを目ざすのです。
軍隊にとって、武器は4つの特徴をもっている。一つは、人殺し以外には役立たない。二つは、使えばなくなる。三つは、武器・砲弾・銃弾は大変高価なものであること。四つは、国家が買いあげしてくれるので、絶対に売りっぱぐれがない。だから、軍需産業は喜び、権力者は戦争の危機を国民にあおりたてるのです。
海兵隊では新兵は3ヶ月半ものあいだブートキャンプ(新兵の訓練)が始まる。ここで徹底した洗脳教育を受ける。上官の命令で、いつでも人を殺せるようになる。上官の命令には絶対的に服従し、言われたことには何の疑いも抱かない。上官の命令によって、いつでも人を殺せるような状態になる。
元アメリカ海兵隊員はイラクからアメリカに帰国してたあと、車の運転ができないようになった。高いビルに狙撃兵が忍びこんでいないか、仕掛けがないか・・・、と心配して見るクセがついている。
旧日本軍には、ほとんどPTSDはいなかった。それほど、旧日本軍兵士は、つくり変えられていた。
自衛隊も、他の国の軍隊も、国民を守るのではなく、国家(権力)を守る組織だ。沖縄戦で、このことは実証されている。
戦争体験は私にはありません。なので、こういう戦場で悲惨な体験をした人々の話を聞き、その可能性を探るのは、自分の貧困な想像力を補うものとして、とても大きな意味があると思います。武井由起子先生、ありがとうございます。力をこめて応援します。
(2018年4月刊。500円)

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