弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年8月24日

アロハで猟師、はじめました

人間


(霧山昴)
著者 近藤 康太郎 、 出版 河出書房新社

東京は渋谷の生まれ、夏はいつでもアロハ姿の新聞記者が、どこをどう間違ったのか、九州は長崎・諫早そして大分・日田で仕事をしながら、百姓として米づくりに挑戦し、さらに猟師になり、罠師になったという抱(捧)腹絶倒の展開です。
まずは農業。朝の1時間だけで、自分1人が1年間に食べるお米をつくるという計画を立てた。田起こし、代(しろ)かき、田植え、稲刈り、脱穀、そのすべてを人力でやってみせよう。男1人の1年分のお米なら、2畝(せ)あれば十分。2畝は1反の5分の1なので、25メートルプールの4分の3ほど。2畝の田だと、田起こしはテーラーを使えば30分ですんでしまう。でも、人力だけでやるとなると、毎朝1時間なら、9日間かかる計算だ。それにしても大変な重労働だ。
私も庭にジャガイモやサツマイモを植えたりしていますから分かりますが、まず腰をやられてしまいますよね...。土いじりは楽しいものですが、ともかく身体がすぐ悲鳴を上げてしまうほど大変なんです。
そして田植え。人力田植えとは、「触覚、視覚、聴覚、味覚を動員する感性の力作業」。
ともかく農作業は腰がやられます。私の父も、百姓をしたくなかったのは、腰を痛めるからだと言っていました。まったく同感です。
そして、著者は次に鴨撃ちのために銃猟の免許をとったのです。鴨は耳のいい動物。軽トラが停車しただけで、はや警戒レベルはマックスになる。
鴨は、メスが撃たれると、コガモのオスは戻ってくる。逆はない。
鴨撃ちに上達するつもりなら、ノートにとって記録しておくべき。日付、天候、場所、逃げていった飛行コースなど...。
安心しきっている鴨にこっそり近づき、逃げるコースをつぶして撃つ。これが堤での鴨の猟だ。撃っても回収できないような場所では、そもそも撃つべきではない。回収しない、食べない猟師は、下の下。
鴨は勇敢な動物。いち早く危険を察知し、敵を発見する。発見したら逡巡せず、すぐに回避行動に移る。
動物は「死」を知らない。「死」という概念がない。
鴨猟は、鴨がこちらを見つけるのか、こちらが鴨を見つけるのか、どちらが早いかで勝負は決まる。高速で飛来する鴨を撃ち落とすのがまず至難の技だが、せっかく撃ち落としたとしても、その鴨を探しあてるのは、弾を当てるよりもずっと難しい。鴨を撃つ場所となる堤を探すのが猟の入口で、出口は「精肉」。探し出した獲物を、きれにさばいて、おいしく料理して、骨の髄まで残らずいただく。大切なのは、なるべく水で洗わない。こまめに布巾で血をふき取る。猟場にカラ薬莢を残さず、羽をむしるなんてこともしない。
罠にかけて猪をとる。猪は運動能力が高く、強い。そして、賢くて、きわめて用心深い。猪は地面の臭いに敏感なので、罠師はシャンプーを使わず、長靴も履き替える。タバコを吸うなんて、もってのほか。
うまい肉をとるための三大ポイント。血抜き、はら抜き、熱抜き。肉のくささは血の臭い。血抜きは重要。茶わん2杯分の血を出す。はら(内臓)抜きを手早くすませて、内臓が熱をもって発酵しないようにする。
いやはや、まさしくとんでもない変人ですが、これで現役の新聞記者としてつとまるというのですから、世の中は意外なことばかりで、面白いのです。
(2020年5月刊。1600円+税)

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