弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年8月14日

勤労青年の教養文化史

社会


(霧山昴)
著者 福間 良明 、 出版 岩波新書

吉永小百合主演の映画『キューポラのある街』が、今どきの若者にはまったく受けないというのです。「そんなに面白いとは思えなかった」といい、「共感できた」という反応は皆無だったとのこと。これはガーンと来るほど、ショックでした。
私の親は小売酒店を営んでいました。店の前に工業高校があり、たくさんの定時制の生徒が通学していて、そのなかに酒店でアルバイトをしている生徒がいました。本村(もとむら)さんという、いかにも真面目な生徒がいて、酒店は大いに助かっていたことを覚えています。
1960年代末ころ、定時制の生徒は全国に50万人ほどいた。ところが1970年代に入ると急速に減少し、1970年に37万人、1975年には24万人と半減してしまった。これは全日制高校への進学率の上昇が原因だ。
そして、定時制は、全日制に行けない人が行くところになってしまった。
私が川崎セツルメントのセツラーとして川崎市古市場で青年サークルに入って活動していたとき(1967年から69年ころ)、同じ町内に『人生手帖』の読者会である「緑の会」があり、私も、先輩セツラーに連れられてそれを一度のぞいたことがあります。
この本によると、『人生手帖』の最盛期は1955年ころで、8万部も売れていたとのこと。
『人生手帖』は1963年には、発行部数が3万部以下になっていたといいますから、私がのぞいたときには退潮期にあったというわけです。でも、狭い部屋にぎっしり地域の働く若者たちが集まっていて、熱気が伝わってきました。いかにも真面目に世の中のことを考えたいという雰囲気でした。
かつては格差にあえぐ状況が、ときに教養への憧れをかき立てていた。進学の望みが断たれても、読書を通して教養を身につけ、人格を高めなければならない。学歴取得や就職のための勉強ではなく、実利を超越した「真実」を模索したい。そうした価値観は、青年団や青年学級、定時制に集ったり、人生雑談を手にする「就職組」の青年たちに広く見られた。そのため、彼らは、日常の仕事には直結しない文学・哲学や時事問題などに関心を抱いた。
そうなんですね、青年の意識が時代の変遷とともに、こんなに変わるものなのか、つくづく思い知らされた新書でもありました。
(2020年4月刊。900円+税)

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