弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年8月 4日

シークレット・ウォーズ(下)

アメリカ


(霧山昴)
著者 スティーヴ・コール 、 出版 白水社

2001年の9.11同時多発テロ事件のあと、アメリカは「テロとの戦い」を宣言して、アフガニスタンへの攻撃を開始した。タリバンとアル・カイーダはたちまち敗走し、カルザイが大統領になった。しかし、20年たった今も、アフガニスタンは安定とはほど遠い状況にある。
オサマ・ビン・ラディンもその後継者たちも、アメリカは殺害には成功したものの、アル・カイーダは世界中に拡散し、タリバンも復活して南部などで大きな存在感を示している。
なぜ、そうなのか、本書はアメリカの軍事戦略、CIAの暗躍などに焦点をあてて解明していきます。ただし、日本とアフガニスタンとの関わりはまったく欠落しています。ペシャワール会の中村哲医師の取り組みなど、一言も触れられていません。すべては軍事と謀略の観点から物事をみようとしています。そこに「ワシントン・ポスト」支局長というアメリカのジャーナリストの限界があると思いました。それでも、アフガニスタンに派遣されたアメリカ兵の手記と、その悲惨な実情は恐るべきものです。
カンダハルに兵士を送り込むのは、1920年代のシカゴに兵士を送り込むようなものだ。当時のシカゴ市政はアル・カポネに支配されていた。
アメリカ軍の小隊の存亡は、もっとも経験豊富な軍曹にかかっていた。第320野戦砲兵連隊第一大隊の第1小隊は当初19人の兵士がいたが、3度にわたる哨戒活動に従事したあとには6人しか残っていなかった。別の中隊は、戦死、四肢切断、脳震盪(のうしんとう)、その他の負傷により人員の80%を補充しなければならなかった。
2010年の夏、第二旅団戦闘団に対して、ブービー・トラップ型や圧力反応型の爆弾攻撃の頻度は、平均2日に1回で、65人の兵士が命を落とし、477人の兵士が負傷した。
アメリカ軍だけでなく、フランス、オーストラリア、イギリス軍の兵士が、ともに任務に取り組んでいるはずのアフガン国軍の兵士や警察官によって殺害される事件が相次いで発生した。
はじめから侵入目的で、入隊したアフガン国軍兵士(殺害事件をおこした兵士)は、5人のうち1人だけで、残りは入隊したあとでタリバンに加わっている。すなわち、外部から潜入したのではなく、途中で立場を変えたのだ。
「グリーン・オン・ブルー」という言葉がある。グリーンはアフガン国軍を、ブルーはアメリカ軍やISAFを意味する。アメリカ軍やヨーロッパの兵士は友軍であるはずのアフガン国軍兵士に殺害される事案のことで、2010年ころ急増した。
アフガン国軍の兵士は、アメリカ軍やISAF軍兵士に対して怒っていた、傍若無人な態度、襲撃を受けたときの容赦ない反撃、あまりに多くの民間人殺害、アフガン人女性を尊重していないこと...。アメリカ兵は多くの一般人を殺す。そして謝罪する。しかし、また同じことをする。我慢できるわけがない...。
2011年5月1日、アメリカはパキスタン領内で、パキスタンの了解を得ることなくオサマ・ビン・ラディンの自宅を急襲し、ビン・ラディン本人と息子などを殺害し、遺体を持ち去った。しかし、その後もアル・カイーダもタリバンもしぶとく生きのびて今日に至っている。
アメリカ軍のオサマ・ビン・ラディン殺害は明らかに国際法にも反する違法な殺人事件です。それを陣頭指揮したオバマ大統領の法的責任は明らかだと思います。
無人機による後継者の暗殺にしても、世間受けするだけで、何らの解決にもなっていないこともまた明らかではないでしょうか...。
オバマ大統領は、アフガン国軍を養成して、治安維持をまかせてアメリカ軍は撤退するという方針だったようです。でも、アフガン国軍の養成は形ばかりで、うまくいっていません。
やはり、根本的な発想の転換が必要なのだと思います。つまり、中村哲医師のような、武器に頼らず、現地の人との対話で少しずつ社会生活を地道に再建していく努力です。軍事力一辺倒では、かえって現地に混迷をもたらすだけだということを本書を読んで改めて痛感しました。
下巻だけでも480頁もある長編力作です。ぜひ図書館で借りて、お読みください。
(2019年12月刊。3800円+税)

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