弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年7月25日

カムイの世界

人間・アイヌ


(霧山昴)
著者 堀内 みき、堀内 昭彦 、 出版 新潮社

語り継がれるアイヌの心というサブ・タイトルのついた、写真集のような本です。オビには、アイヌ文化の深層に迫る初のビジュアル人門書とありますが、なるほど、素晴らしい出来ばえの写真のオンパレードになっています。
アイヌは少数民族ではない。先住民族だ。
まさしく、そのとおりですよね。よく日本は単一民族という人がいますが、それはアイヌの存在を無視しています。
アイヌには祭りなんてない。あるのは、カムイノミと先祖供養だけ。
平取町二風谷(にぷうだに)は人口400人で、住民の8割近くをアイヌの人々が占める。
文字をもたないアイヌ民族は、ユカラに限らず、子どもに大切なことを伝えるのにも、何度も繰り返し言い聞かせ、徹底的に覚え込ませるという方法をとった。
ユカラの語源も「まねる」。最初はまねから始めて、口から口へと語り継がれてきた。節をつけるのは、語るほうも聞くほうも、頭に入りやすいから。夕飯のあとなどに、毎晩、囲炉裏を囲んで語られた。
アイヌの先祖供養では、宅配便と同じで、届け先と送り主を明確にすることが大切だ。供物を捧げる前に、自分の名前とご先祖さんの名前をきちんと言う。そうしないと届かない。
アイヌは、どんなものでも分けあって食べる。みんなで等分に分ける。それがアイヌの精神だ。これは、アイヌの人々が狩猟採集民族であることにも関わっている。狩猟で得た熊や鹿などの大きな動物は、一家族では食べきれない量がある。そのうえ、コタンには、働き手を喪った未亡人家族や一人暮らしの老人もいる。分けあう行為は、ある意味でごく自然なことだった。
アイヌの人々は和人(日本人)の横暴と戦ってきた。
1457年のコミヤマインの戦い。
1669年のシャクシャインの蜂起。
1789年のクナシリ・メナシの戦い。このとき蜂起の中心人物37人が処刑された。
アイヌの人々の心と歴史が、くっきり鮮明で素敵な写真とともに語られています。
(2020年3月刊。2000円+税)

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