弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年7月23日

山岳捜査

社会


(霧山昴)
著者 笹本 稜平 、 出版 小学館

先日、たまたまテレビを見ていたら、若いころ登山に熱中していたという老年の社長が、一緒に山に登った仲間が何人も山で死んでいったという話をしていました。
十分な準備をして、訓練もしっかりしていても、落石や雪崩にあって生命を落としたり、ほんのちょっとの慢心から転落したりして、大勢の若者たちが生命を失っています。
本人がその危険を承知で登山しているのですから、誰も責めるわけにはいきませんが、他からみていると、あたら生命をそんなに「粗末に」扱わなくてもいいのに...、と思ってしまいます。
私は冬なら、ぬくぬくとした布団で、ぐっすり眠っていたいです。
この本は、冬山で遭難している登山客の山岳遭難救助隊が主人公です。ご苦労さまとしか言いようがありません。
ヘリコプターを飛ばせたら簡単なんでしょうが、冬山の吹雪のなかではヘリコプターによる救出もできないのです。結局は地上をはって進むしかありません。でも、ホワイトアウト、周囲がまっ白になって何も見えなくなったら、どうしますか...。
この本には、たくさんの耳慣れない登山用語が出てきます。
セルフビレイ......自己確保。
プロテクション......墜落距離を短くし、墜落のショックをやわらげるために登攀者と確保者とのあいだにとる支点。
落ちることを恐れていては、大胆なムーブ(体重移動)を試みられない。壁を登るとき、体や気持ちが萎縮すれば、かえって危険を招きやすい。
ワカンをつけてもラッセルは腰くらいまであるが、下りは登りと比べてはるかに楽だ。
怖いのは、乱暴な動作で雪崩を引き起こすことだ。
テントが押し潰されたら耐寒性は低下する。そして、雪に埋没したら酸欠に陥る恐れがある。
テントには保温性と通性という二律背反する機能が要求される。あらゆる条件で、この二つの要素を満たす製品はない。
救難の現場では、心拍停止後、おおむね20分が蘇生可能な限界だと言われている。
山岳遭難救助隊は自らが遭難しないことを第一義として考え救助に向かっているという当然のことがよく理解できました。現場は遭難するのも当然という状況にあったりするわけですので、それはやむをえない発想だと実感しました。
殺人事件の謎解きのほうは、今ひとつピンと来ませんでしたが、山岳遭難救助隊の大変さのほうは、ひしひしと迫ってきて、よく分かりました。
(2020年1月刊。1700円+税)

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