弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年7月14日

秘密資金の戦後政党史

社会


(霧山昴)
著者 名越 健郎 、 出版 新潮選書

冷戦期に活動した自民、社会、公明、民社、共産5党のうち、公明党を除く4党はアメリカとソ連から政治資金をひそかに導入していたことが、冷戦後解禁された米ソの公文書で判明した。疑惑が浮上すると、各党とも受け入れを全面否定し、日本共産党を除いてまともに調査しようともしなかった。
この本は、このことを詳細に紹介しています。その意味では、既に明らかになっていたこと詳しく裏付けているものです。ただし、岸信介については、アメリカの公文書が今でも全面解禁されてはいないようです。よほどの事情があるようですね...。
そして、共産党の野坂参三・元議長についても、アメリカのスパイ(情報提供者)だったことも、疑いにとどまっているとのことです。歴史においては、依然として闇のままというのは多いのですね...。
1963年、原水禁運動の対立のなかでソ連は日本共産党への資金援助を打ち切り、日本社会党に乗り換えた。
共産党の公式見解は党としてソ連に資金を要請したことはないし、党の財政にソ連資金が流入したこともないというものです。
岸信介については、CIAの暗号名すら今もって判明していない。それだけCIAとは深い関係にあったことを疑わせる。
野坂参三はキヨナガというCIAの「サムライ作戦」の対象になっていた。これまた、私は知りませんでした...。
CIAは、後藤田正晴とは深い関係を築いていた。
自民党へ投入されたCIA資金は54億円。今の価値にすると、10億円以上。
岸信介は、駐留米軍の撤退を求めたことからそれまで重用されていたものの、簡単に見捨てられた。これは、吉田茂と同じパターンだ。
吉田茂は、日本の急速な再軍備に反対したことから、アメリカが吉田を嫌い、退陣に追い込まれた。
CIAと自民党のあいだで行なわれたもっとも重要なやりとりは、情報とお金の交換だった。
アメリカはCIAを通じて、自民党に対して毎年200万ドルから1000万ドルの資金供給が定着し、慣例となっていた。自民党への資金の流れはCIAと駐日大使という二大ルートがあった。
大平正芳は、池田内閣の官房長官のとき、アメリカのCIAから「選挙に必要なら軍資金を供給する」という申出を受けたことがある。しかし、外国のお金は受けとれないと断わった、と述懐した。
CIAは首相官邸経由でも資金援助を行い、ハワイが受け渡しの場所だった。
アメリカの自民党への援助額は36億円とか54億円という、とんでもない巨額だった。これに比べると、ソ連から日本共産党へ提供されたのは9千万円であり、桁違いに小さい。
日本共産党へは1960年ころ、年に5万ドルとか10万ドルとされていた。
共産党は、これは野坂参三と袴田里見が個人的に受けとったものだと説明している。
そして、日本共産党の野坂と春日正一の会話までアメリカのCICに通報されている。つまりアメリカのスパイが共産党本部のトップ周辺にいたというわけです。
野坂参三がGHQのリベラル派のケーディズともよく会い話をしていたというのも初耳でした。世の中、知らないことは多いものですね...。
(2019年12月刊。1500円+税)

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