弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年7月 5日

木簡、古代からの便り

日本史(古代)


(霧山昴)
著者 奈良文化財研究所 、 出版 岩波書店

木簡のことがよく分かる楽しい本です。
全国で見つかった木簡は50万点。その7割は奈良など、古代の都の周辺で見つかっている。630年代くらいが最古。
奈良研には6000個もの容器に入れた木簡を保有している。
木簡が残るのは、溝やゴミ捨て穴、井戸のように当時の地面を人為的に掘りくぼめた深い遺構の中。
地表に出ない場所で、日光と空気から遮断された状態で、地下水に守られながら腐蝕の速度が抑えられて初めて、木簡は1300年も残る。たっぷりの水と泥とで日光と空気が遮断され、バクテリアの活動が抑制された環境のなかで、かろうじて残っているのが実情。
そのため、木簡は科学的な保存処理を施すまでは、水に漬けて保管しなければならない。
奈良研では、毎年8月、「水替え」と呼ばれる水漬け木簡の総点検をしている。
奈良研では、室温20度、湿度60%に保たれた専用の処蔵庫で処理ずみ木簡を保管している。
木簡はもともとゴミなので、一つひとつの持つ情報は決して多くない。日常業務や生活に密着した事柄が多い。
古代に人々は、木と紙の双方の特性を熟知し、この二つを使い分けていた。
木簡は、表面を刀子(とうす。小刀)で削り取ると、厚みの許すかぎり何度でも書き直せる。たとえが、人事テータの管理には、加齢や異動などによる書き換えが前提となるので、紙より木簡のほうが適している。
木簡の用途や種類は多彩。くじ引き札。巻物の軸であり、背表紙のようなもの。手紙や帳簿。荷札・ラベル。文書の練習・落書。
奈良研で保管している30数万点の木簡のうち、80%以上は「削屑」(けずりくず)。
長屋王家木簡と呼ばれる木筒3万5000点が発見されたのは1988年(昭和63年)のこと。
(2020年2月刊。1800円+税)

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