弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年6月29日

心の進化を語ろう

人間・サル


(霧山昴)
著者 松沢 哲郎 、 出版 岩波書店

哲学には2つの使命がある。一に、この世界はどうなっているかを知ること。その二は、人間はいかにふるまうべきかを考えること。
なるほど、それだったら、私も立派な哲学の徒ですかしらん...。
人間以外の霊長類でも死児を持ち運ぶものは少なくない。高崎山のニホンザル6000例のうち、157例の死児の運搬が観察されている。それも、生まれてすぐに死んだ子は持ち運ばない。生まれて1日でも赤ん坊が母親にしがみついていると、10例に1例の割合で、母親は死児を持ち運ぶ。
これも死を弔う行動と言えるのか...。
チンパンジーのアイは女性だが、昔から気が強い。幼なじみのアキラ(男性)はそれをよく知っていて、アイにはなかなか逆らえない。へたにケンカをしようものなら、アイがほかの女性たちを引きつれて逆襲してくる。
ゴリラはケンカしない。大騒ぎもしない。道具をつくらない。使わない。狩猟をしない。食物分配がない。群れ間での殺しあいもない。人間の狂気に近いものをゴリラからは感じとれなかった。
ボノボは女性優位で、ほとんど道具を使わず、隣りあう群れは平和共存している。
ボノボは、チンパンジーと違って、メスが集団の中心にいる。
ボノボの果実分配は、豊かな森で、独力でも手に入れられる果実をあえて分けあって食べている。
一般的にチンパンジーには、「おばあさん」という役割がない。死ぬまで自分の子どもを産み、育て続ける。
チンパンジーでは見張り役をするのは、おとなの男性であることが多い。
チンパンジーは好奇心旺盛だが、とても用心深い。
ボノボは、面と向きあうと、じっと目を見返してくれる。これに対して、チンパンジーは視線をあわせようとはしない。
チンパンジーには、複数の男性と複数の女性から成る共同体はあるが、家族はない。数十からときに200ほど近い個体が集まっているが、特定の男女の結びつきはなく、「乱婚」と形容される。
ゴリラには、シルバーバックと呼ばれ大人の男性がいて、複数の女性と子どもたちがいる。しかし、家族だけであって、それを束ねた共同体は何もない。
オランウータンは、母子の結びつきしかない。
人間は、親だけでなく、複数の大人が共同して手のかかる子どもたちを育てている、
人間とは何者かを考えるときに必須の本だと思います。京都学派は、この分野では世界をリードしてがんばっています。本書は、いわば百科全書のような内容になっています。
(2019年12月刊。2600円+税)

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