弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年6月24日

中東テロリズムは終わらない

中東


(霧山昴)
著者 村瀬 健介 、 出版 角川書店

「イスラム国」(ISI)が2人の日本人を殺害したのは2015年1月末のことでした。まだ5年しかたっていませんが、なんだか昔のことのように感じられます。それほど、日本では中東のことはニュースにならないし、何が原因で、どんなことが起きているのか、十分に知らされていないと思います。この本には足をつかって中東の実情をつかみ、私たちに知らせようとするものです。
シリアやイラクなどの中東で、今やアメリカのコントラクターが「活躍」している。
コントラクターとは、アメリカ政府が発注する軍事関連の仕事を請け負う退役軍人のこと。その多くが元特殊部隊といった、高度の軍事スキルを身につけていて、アメリカの民間軍事会社に所属している。
アメリカ軍の展開する兵力規模には含まれないので、アメリカ国民向けには都合がいい。しかし、現実には、作戦現場では、アメリカ軍兵士よりもコントラクターのほうが多かったりする。今や、コントラクターがアメリカの安全保障政策を与える不可欠の存在となっている。というか、今ではアメリカは、コントラクターなしには軍事作戦を遂行できなくなっている。
いったい、これで現場の作戦指揮命令系統に矛盾は起きないのでしょうか...。
そして、シリア内戦の影響から、兵器産業は好景気に沸いていた。シリアの反体制派に兵器を供与していたサウジアラビアやトルコ、アメリカなどが兵器を調達していたのはブルガリアなどのバルカン諸国だった。バルカン諸国で大量に買い付けられた兵器は、いったんトルコやヨルダンに運ばれ、そこからシリア国内の反体制派武装組織に渡った。
著者はTBSの中東支局長として、ギリシャにたどり着いた難民ボートも取材しています。大変な苦労があったようです。
難民は1人あたり12万円から24万円を密航業者に支払っていた。そこには難民でもうける難民ビジネスが存在していた。
アメリカは2003年のイラク侵攻によって、フセイン政権というスンニー派の政権を打倒して、シーア派の政権を誕生させた。隣国のシーア派大国イランは、その長年の悲願を敵国アメリカがやってくれたことを信じられない思いで見ていた...。
イランのスレイマニ司令官(アメリカがドローン攻撃で殺害した)が殺されたときにイラクにいたのは、イラン革命防衛隊の息のかかったイラクのシーア派民兵組織を指導するためだった。今では、イラク政治においてイランは大きな影響力をもつに至っている。このことに貢献したのは、実は、他ならぬアメリカだった。
2003年のアメリカによるイラク侵攻は、イラクに大量破壊兵器ないし生物兵器があるというイラク人化学者の「告白」を根拠としていた。しかし、この「告白」をした人物は、とんでもない嘘つきで、もともと信用できない人物だった。このスキャンダルによって、大統領候補とまで言われていたパウエルは急に失速した。
カーブボールと名づけられたイラクの「化学者」は、ドイツでより良い待遇を受けるために作り話をし続けたのだった。相手の興味をひく物語を語り続けている限り、クスリと酒を飲んで快適な生活が得られたのだ。
著者たちは、生物兵器の製造工場だったというところまで現地を見に行ったのです。なんという取材でしょう。ある意味で生命がけの取材だったようですが、見事、「告白」がウソだったことを裏付けたのでした。
大量破壊兵器疑惑は世論に戦争を売りつける手段だった。こんなウソをまともに押しつけられ、貴重な税金がアメリカの軍需産業をうるおしているかと思うと、被害にあった人々の怒りを全身に受けとめ、戦争反対の声をもっと大きくしなくてはいけないと痛感するのでした...。
(2020年3月刊。1500円+税)

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