弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年5月23日

旅人の表現術

人間


(霧山昴)
著者 角幡 唯介 、 出版 集英社文庫

著者の旅行体験記である『空白の五マイル』そして『極夜行』には、ため息を吐くのも忘れてしまうほどに圧倒されてしまいました。もちろん、その旅行から無事に生還して体験したことを文章化しているわけですが、その旅行では極限の窮地に置かれ、どうやってこの死地から脱出するのか、つい手に汗を握ってしまいます。
著者は初めから文章や本を書くことを前提に探検や冒険に出かけている。
はじめのころは、行動者としての自分、表現者としての自分が分裂し、自己矛盾をきたしているのではないかというジレンマにかなり悩まされた。しかし、今では、このジレンマに苦悩することは、ほとんどなくなった。それは探検家としての行動者的側面と、書き手としての表現者的側面が自分のなかで無理なく一つにまとまっていると感じることができるようになったからだ。
なーるほど、ですね。なんだか悟りの境地にある仙人みたいです。
冒険とは、死を自らの生の中に取り組むための作法である。
経験とは、想像力を働かせることができるようになることだ。自分だけの言葉で語ることのできる事柄を、自分の中に抱えこむということだ。冒険のあいだ、死にたいする想像力をもつことができる。
探検は冒険の一種だ。冒険というのは、個人的な行為だ。主体性があって、生命の危機にかかわる行為であれば、それは冒険だ。探検は、それに未知の部分が加わる。
探検はアウトプットを必要とする。冒険はアウトプットを最終的な目的としない。
本多勝一、開高健の作品もすごいと思って読みましたが、著者の探検記も、生と死の極限状態をギリギリのところまで究めようとしている壮絶さがあります。
この本は、そんな著者がいろんな人と対談しているので、さっと読めますし、ああ、そういうことだったのか...と、いろいろ教えてくれました。
(2020年2月刊。700円+税)

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