弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年5月21日

大東建託の内幕

社会


(霧山昴)
著者 三宅 勝久 、 出版 同時代社

大東建託は1974年(昭和49年)に大東産業として多田勝美が創業し、以来、36年間にわたって企業オーナーとして君臨した。
多田会長の年収は2億5800万円(ストックオプション含む)。田園調布の高級住宅地の敷地500坪に地上2階建、地下1階、のべ床面積300坪という豪邸に住んでいる。
2010年の時点で、大東建託のアパートは全国に6万棟超。戸数は60万戸。2017年では累計で17万棟。管理戸数は100万戸超。実は、私の娘もそのアパートに住んでいます。年間の売上高は9548億円、経営利益739億円、従業員1万3000人、という巨大企業。
そして役員報酬は、常勤取締役10人の平均は1億2000万円。社外取締役7人の平均は1650万円(2017年3月期)。
ところが、従業員の自殺が相次いでいる。厳しいノルマに追い込まれるのだ。朝8時から深夜まで、毎日15時間以上の長時間の労働で疲れてしまう。
建築営業は「終日時間」という飛び込み営業をさせられる。大変な苦痛だ。そして夜8時半に支店で終礼をする。
ノルマには、「契約のノルマ」と「プロセスのノルマ」の二つがある。「契約のノルマ」は、毎月、アパート建築の契約をとれというもの。「プロセスのノルマ」には「八六四三」と称されるものがある。「立地審査」を月8本、「家賃審査」を月6本、「プラン提示」を月4本、「最終業績」を月3本とれというもの。
支店の数字を上げるため架空契約するのは、よくあること。「テンプラをあげる」という。親しいオーナーに頼んで、本当は建てる気がないのに、契約書だけつくってもらい、それを支店の成績として報告する。
埼玉県の中央支店では7人が解雇され、所沢支店では支店長以下14人がクビになった。
30年間の家賃保証というが、実は、これは試算であって、この金額を継続保証するものではないと、小さな文字で契約書には書かれている。10年たつと、この条項によって家賃を減額し、それに応じないと「一括借り上げ」を解消されてしまう。すると、たちまちアパート経営による利益なんかないどころか、大赤字をかかえてしまう。
なので、大東建託でアパートを建てることを考えているのなら、やめたほうがいい。
そうなんです。素人がアパート経営に手を出してうまくいくと考えるほうが甘すぎるのです。世の中、甘い話は怖い話でしかありません。
(2019年7月刊。1500円+税)

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