弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年5月 9日

癒されぬアメリカ

アメリカ


(霧山昴)
著者 鎌田 遵 、 出版 集英社新書

アメリカ先住民社会の現状が詳しく紹介されています。
アメリカには300万人近い先住民が暮らしている。3億人をこえる人口の1%にもならない。部族は573。平均年齢は31.4歳で、全米平均の37.7歳より若い。25歳以上の人で、4年制大学を卒業しているのは18.5%。これは、全米平均の30.1%をはるかに下回る。貧困率は28.3%。
先住民は糖尿病の疾病率が高く、白人の2倍。そして糖尿病が原因の腎不全を患う先住民人口の割合は白人の5倍。
先住民は、強制的に定住させられ、極度の運動不足と、食糧難に陥った。そして、安価で高カロリーの食糧が政府から配給された。これらが原因だ。
先住民にとって、砂漠はスーパーマーケットのようなもの。風邪薬や食べもの、食器や家財道具などの日常生活に必要なものは、すべてここで手に入る。必要なものは、すべて砂漠で調達する。風邪の症状が出たら、砂漠に生えている雑草をそのまま口にする。
モハベ族の先祖たちは、白人の侵略者の要求に応じた。そうすれば、自分の世代はともかく、子や孫の世代は、白人と一緒に生きていけると思ったからだ。しかし、白人の要求は底なしだった。伝統文化の継承を禁じ、弾圧によって尊厳までも奪うとは、誰も予想できなかった。
モハベ族の人たちには死んだ人の悪口を言ってはいけないという不文律がある。自分の先祖と同じ場所にいる人を批判することになってしまうからだ。
先住民の居住地がドラッグ密輸の経路になっている。
先住民の12.3%がドラッグを使用していて、23.5%が過度の飲酒の問題をかかえている。
先住民の居留地内には、複数の女性ギャング組織があり、ときに抗争にまで発展している。
先住民が刑務所に収監される割合は高い。先住民の収監者は、1999年の5500人から2014年の1万400人に増えた。毎年平均して、4.35%ずつ増加している。ほかの人種の増加率1.4%より3倍以上も高い。
過去5年間に連邦刑務所での先住民の収監者は27%も増えた。
先住民の逮捕者は10万人のうち4268人で、黒人の5393人に次いで多い。これは白人の2386人よりはるかに多い。
先住民の10万人あたりの自殺者は21.5人で、ほかの人種よりも高い。
アメリカでは、現在、247の部族が全米29州の居留地でカジノの経営に参入している。520施設だ。カジノ経営によって、雇用機会は増加し、その収益で居留地のインフラ整備や少額金制度などが強化されている。
 居留地でのカジノ経営は、人種差別に苦しむ先住民の貴重な収入源になっている。また、部族が守り抜いた自治権の象徴でもある。
先住民のカジノ収益は、おもに居留地内の社会福祉事業や伝統文化の維持するものであり、それを通じて部族社会再建のために確立していた(はずだった)。
もともと居留地には、アルコールとドラッグの問題があった。でも、今はギャンブル依存症が深刻化している。
アメリカ先住民女性の46%はレイプ、家庭内暴力、交際相手からのストーカー被害のいずれかにあっている。先住民の女性がレイプされる割合は高く、その加害男性が先住民以外の人種である割合は86%と、とても高い。レイプの被害者が先住民だったとき、警察は動かない。
アメリカの先住民をインディアンと呼ぶのは、おかしい。インド人ではないからだ。
先住民であることを隠して、多くの人が生きている。
インディアンとも呼ばれているアメリカ先住民の置かれた状況は大変だということがよく分かる新書でした。
(2019年12月刊。1000円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー