弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年4月28日

平成重大事件の深層

社会・司法


(霧山昴)
著者 熊﨑 勝彦 (鎌田 靖) 、 出版 中公新書ラクレ

東京地検特捜部長として高名な著者をNHK記者だったジャーナリストがインタビューした本です。8日間、のべ25時間に及ぶロングインタビューが読みやすくまとめられています。
「これは墓場までもっていく」といった場面がいくつかあり、いささか物足りなさも感じました。要するに自民党政治家の汚職事件です。
ゼネコンなどが大型公共工事で談合していることは天下周知の事実なわけですが、途中に「仲介人」が入っていたら刑事事件として立件できない、著者はこのように弁解しています。一見もっとものようにみえますが、本当に「仲介者」を攻め落とせないのか、そこに例の忖度(そんたく)が入っていないのか、もどかしい思いがしました。
登場するのは、リクルート事件、共和汚職、金丸巨額脱税事件、大手ゼネコン汚職事件、証券・銀行の総会屋への利益供与事件、大蔵省汚職事件です。
スジの良い情報をとれば、捜査は半分成功。
厳正な捜査を貫くことが捜査の基本だが、そのなかで国民目線でものを見ていくことも重要。国民の視点をつねに留意する。捜査というのは、途中で後戻りする勇気も合わせもたないとダメ。
事件捜査は、離陸がうまくいっても、肝心なことはうまく着陸できるか...。
金丸信副総裁への5億円ヤミ献金事件では、金丸信を実情聴取もせず、上申書のみで、罰金20万円で終わらせた。これに国民は怒った。怒った市民が検察庁の看板をペンキで汚すと、同じ罰金20万円だった。
著者は、この金丸副総裁の件を罰金20万円でよかったと今も考えていると弁明しています。とんでもない感覚です。金丸信は、現金10億円を隠していたのです。いったい何という政治家でしょうか...。これが自民党の本質ですよね。
ゼネコン汚職事件について、談合が過去形であるかのように語られているのも納得できません。
高度成長期に建設業界が長いあいだ公共事業で潤っていたことが明らかになった。その旨味(うまみ)を、談合をとおして特定業者に分配する構造が浸透していた。
さらに、談合は受注側だけじゃなくて、発注者側も加担している。つまり官製談合もはびこっていた。このような隠れた社会システムのなかで、建設族とか運輸族とかの族議員や地方自治体の長らが幅を利かせていた。
これって、今もそのまま生きているように私には思えるのですが...。
レストランの奥の部屋にゼネコン4社の談合担当者が集まり、全部で現金1億円をトランクに入れ、それをまるごと仲介者に手渡した。そして仲介者が仙台市長に渡した。
今も、同じことがされているのじゃないのでしょうか...。
物足りなさもたくさんありましたが、特捜検事の苦労話としては面白く読みました。
(2020年1月刊。980円+税)

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