弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年3月28日

「戦争は女の顔をしていない」

ロシア


(霧山昴)
著者 小梅 けいと 、 出版 KADOKAWA

独ソ戦を舞台とする原作(岩波書店)は、このコーナーで前に紹介したと思いますが、女性と戦争との関わりが深く掘りさげられていて刮目すべき衝撃作でした。そんな深みのある労作がマンガ本になって、視覚的イメージでつかめるなんてすごいことです。作画者に心より敬意を表します。
独ソ戦で、ナチス・ドイツと戦ったのは男性だけではなかったのです。大勢の女性兵士が参加していました。狙撃兵として名をあげた若い女性が何人もいますし、飛行機パイロットにも勇敢な女性飛行士たちがいました。ドイツ軍に捕まれば、もちろん男性兵士以上に性的虐待がひどいうえに殺されてしまいます。それでも、彼女らは最後まで戦ったのです。
もちろん、後方支援というか、傷病者を手当てする看護兵もいましたし、洗濯部隊までいたのです。洗濯機なんかありませんので、すべて手で洗います。石けんは真っ黒で、手が荒れてしまいました。
狙撃兵は2人1組で、朝も暗いうちから夕方暗くなるまで、木の上や納屋の上に登って気づかれないようカムフラージュしてじっと動かないで敵のドイツ軍を見張る。
食糧がなくなり、戦場にでた子馬を殺したときには可哀想ですぐには馬肉シチューが食べられなかった。
女性兵士には男物のパンツをはかされていた。生理用品もなかった。若い女性兵士にとって恥ずかしいという気持ちは、死ぬことより強かった。
戦後、かつての女性兵士が取材にこたえてこう言った。
戦争で一番恐ろしかったのは、死ではなく、男物のパンツをはいていることだった。
『独ソ戦』(岩波新書)も大変すぐれた本ですが、このマンガ本や原作を読むと、もっと独ソ大戦争の悲惨な実相がつかめると思います。一読を強くおすすめします。
(2020年2月刊。1000円+税)

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