弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年3月19日

トヨトミの逆襲

社会


(霧山昴)
著者 梶山 三郎 、 出版  小学館

トヨタ自動車の経営トップについて「99%実話」という噂のある本だというので読んでみました。著者は現役の経済記者とのことで、覆面作家と称しています。
前著『トヨトミの野望』も読んで、このコーナーでも紹介したように思います。ともかく、日本を代表する超巨大企業の経営トップのドロドロとした世渡りの実態がほとほと嫌になるくらい暴露されています。そのすべては、トヨタが巨大企業でありながら、創業者一族の独占する「一私企業」であるかのように運営されていることに起因しているようです。
トヨタの社長は、トヨタに関する報道はくまなく精査させ、論調にまじったわずかなトゲ(棘)も見逃すなと指示した。
その記事の出元には広報セクションが折衝し、ときに昵懇(じっこん)の間柄である大手広告代理店を使い、広告を引き上げる(とりやめる)か、あるいは逆に出す広告を増やす。こんなアメとムチでメディアを飼いならす。
トヨタの社員が目に見えて横柄になったのは、2000年代の後半。トヨタ一族の社長が就任してからのこと。
「どこがトヨタにとってうれしいのか」と、トヨタの社員は上から目線で問いかける。トヨタにどんな利益をもたらしてくれるのかと迫る言い方に、傲慢さと驕りが言葉の裏から透けて見える。
社長の覚えがいいことを利用して無駄づかいを繰り返す「お小姓」、私情をまじえて人事権を振るう「側用人」。こういう人間が社長にまとわりついている限り、トヨタという組織は「君側の奸臣」をかかえたまま。無害な人間だが、長いついあいだからというだけでそばに置いている社長秘書も、まったくの能力不足...。
トヨタの創業者社長は、自分に従順な人間は徹底的に重用するが、意見があわなかったり、批判的な人間は許さない。その結果、社長のまわりには、「お友だち」しか残らない。役員のあらかたは粛清がすんでいる。
トヨタの人事部は自分たちに危害が及ぶから、必死になって社長の意向を忖度(そんたく)して、気に食わない人間を社外に放り出す。そんな上司に嫌気がさしたのか、トヨタの人事部では、この1年で中堅社員が10人以上も辞めていった。
ニッサンの内部抗争もひどいものでした(です)が、トヨタのほうも、同じように根本的な問題を経営トップはかかえているようです。
あくまで私企業の話ですから、だからどうだということではありません。ただ、私は弁護士になれて良かったなと胸をなでおろしてしまいました。こんなドロドロとした抗争の世界にいたら、ストレスが強すぎて病気になってしまいますよね...。
アベ首相のまわりも同じことなのでしょうね。そんなことはしてはいけないと諫言(かんげん)できる人がまったくいないのですよね、きっと。まあ、アベ内閣は一刻も早く総辞職してもらったほうが「美しい国ニッポン」のためになると思いますが...。
実在の組織や人物とは関係ないフィクションということですので、私が「99%実話」という噂をもとにトヨタをあてはめてみたのも、私は、このように読んでみましたというだけのことです。
(2020年1月刊。1700円+税)

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