弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年3月12日

反対尋問

司法


(霧山昴)
著者 フランシス・ウェルマン 、 出版  ちくま学芸文庫

120年も前にアメリカの弁護士が書いた本とは思えない指摘のオンパレードです。
当初の解説は平野竜一が書いていました。そこでは、ロッキード事件やグラマン事件での国会での証人尋問の拙劣さが指摘されています。尋問する国会議員は威丈高に直接法的な尋問するが、真実は少しも明らかにならないとの批判です。しかし、昨今の国会議員のうまさは目を見張るものがあります。とりわけ共産党の田村智子議員の安倍首相の質問には心底から感服しました。
今回のちくま学芸文庫版では現代日本の刑事弁護の第一人者というべき高野隆弁護士が次のように解説しています。
1世紀以上も前の先人たちの話に接するのはとても貴重であり、勇気づけられる。
経験にしか頼るものがない時代に、彼らが試行錯誤の末にたどり着いた結論は、現代の法廷弁護士に対しても気付きを与え、一般市民に人の営みの奥深さを教えてくれる。
さらに、高野弁護士は、法廷技術には科学や理論で説明しきれない部分があると強調します。公判廷にいて偶然のたまものとしか言えないような瞬間がある。検察側の証人の表情を見ていて、反対尋問のアイデアが閃光のように閃く(ひらめく)ときがある。
メモなんか取るひまがあったら、証人を観察せよという言葉の真実を実感するときがある。この本は、そうした閃きを私たちに与えてくれる源泉となる。そうなんですよね...。
反対尋問が弁護士に必要なあらゆる技術のなかでも、もっとも難しいものの一つであることは、疑問の余地がないし、またもっとも大切なものの一つでもある。
弁護の技術には、熟練への早道も王道もない。経験である。成功をもたらすものは、ただ経験だけと言えるだろう。
弁護士には、尋問中の証人の弱点を見抜く直観が要求される。
訴訟代理人の弁護士は証人と精神的決闘をしているのである。
良き弁護士は良き俳優でなければならない。
質問は論理的な順序で行なってはいけない。ここかと思えば、またあちらという具合にやる。一般法則として、元の証言を最初と同じ順序でくりかえさせてみても、時間のムダになるだけのこと。
つまらない質問をどんどんぶつけながら、なかに大事な質問をまぜ、しかもまったく同じ声の調子でやる。
反対尋問の唯一の目的は、対立証言の力を打破することにある以上、無益な試みはただ証人の陪審への心証を利するだけのこと。だから、沈黙は、しばしば長時間の尋問にまさる。つまり、席を立たず、全然質問をしないでいるにしくはない。まあ、そうは言っても、反対尋問しないということを私はやったことがありません。
反対尋問の目的は、真実をつかまえることにあるが、この真実というものは、実につかまえにくい逃亡者なのだ。
延々と執拗に質問しつづけて、証人の頭をへとへとにさせたあげく、真実を引き出してやるという方法でしか成功できない場合もまたある。
頭の良さが良心の欠如を隠しているような証人の偽証を暴くほど、難しいことはない。
うむむ、大変大変勉強になりました。文庫本で700頁の大著なのに、1900円という安さです。ぜひ、あなたもご一読ください。
(2019年7月刊。1900円+税)

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