弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2020年1月28日

原爆を見た少年(上)

日本史(戦前)


(霧山昴)
著者 後藤 勝彌 、 出版  講談社

原爆を見た少年というタイトルですから、広島か長崎に生きる少年の話かと思うと、そうでもなく、キリスト教に殉教した江戸初期の26聖人の一人(トマス小崎)が登場したり、雲仙・島原そして原城、ローマへの遣欧少年使節団の話になったり、時空を超越して話は展開していきます。さらに、脳神経外科の専門医である著者の得意とする脳卒中専門病院における手術の模様までも詳細に紹介されます。異色の小説だと思いながら読みすすめていきました。
出だしは脳血管内治療の場面です。
主役の一人は火男(ひおとこ)。「ひょっとこ」ではありません。火男は脳血管手術をしてヒカルを助けた命の恩人の医師。
もう一人の主役はヒカル。脳出血を起こして瀕死の状態になったとき、光輝く存在を見たことから、ヒカルというあだなをつけられたのです。この二人の問答、そして道中(旅行)として物語は展開します。
京都でとらえられ、長崎で処刑された26人のキリシタンのなかには、11歳から14歳の3人の少年がいた。そのひとりがトマス小崎。彼らは見せしめのため耳を削(そ)がれて、大坂の町を引きまわされたあと、長崎まで1000キロの冬の道を裸足(はだし)で歩かされた。
そのトマス小崎は母親に宛てて別れの手紙を書いたが、一緒に磔(はりつけ)にされた父親の着物の襟に縫いつけられていた。
原爆の起爆装置が起動してからの10秒間に何が起きたか・・・。
炸裂(さくれつ)するまでの100万分の1秒のあいだに発生した膨大な中性子は、次の核分裂を引き起こしただけでなく、あらゆるものを突き抜け、あらゆる物質の原子核にぶつかって、新たな放射線を生み出していった。
爆心地にいた人々の被曝線量は中性子とガンマ線をあわせると60グレイと推定されている。この放射線の破壊力は、仮に50グレイの放射線を手のひらにあてられたら穴が開くという、とてつもないものだ。このような中性子やガンマ線による被曝が1週間も続いた。
被爆者の死亡の20~30%は、つづいて出現した火球の熱による「閃光(せんこう)やけど」によるもの。2キロ以内の野外にいたら生き残れる可能性はなかった。火球によって加熱された空気が膨張するとき、まわりの空気がいっきに押し出され、すさまじい衝撃波が生じる。そのスピードは音速より速い。この衝撃波は地面に衝突して、さらに圧力を倍加させる。さらに、火災が発生した地域に向かって市の周辺から吹きこんでくる風によって、20分後に火事嵐が生じた。この強風にあおられて町は燃え尽きた。
どうでしょうか、この状況では核シェルターで身を守ることなんて出来るはずがありません。30年以上も前にアメリカに行ったとき、家庭用核シェルターがつくられ、売られていました。
核戦争になったら地球は破滅します。核が抑止力なんて、とんでもなく間違った考えです。地球上で人類が生存するには、核兵器の全廃こそ必要なのです。核兵器禁止条約に背を向けたままの安倍政権は私たちの生存を脅かす存在だというほかありません。
上巻の最後は原城跡です。私も先日、行きました。ここで3万人もの人々が籠城して戦っていたというのが信じられないほど、のどかでおだやかな地です。そんな平和を守り続けたいものです。このコーナーを愛読しているという著者から本を贈呈していただきました。ありがとうございました。
(2019年8月刊。1900円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー