弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2019年12月30日

脚・ひれ・翼はなぜ進化したのか

生物


(霧山昴)
著者 マット・ウィルキンソン 、 出版 草思社

生物が長く生きられるようになったのは、ひとえに移動運動のおかげである。移動運動が生物圏に登場して初めて、生命体の世界は十分に発達し、たんなる生化学以上の何かになるのだ。自己推進力が進化してこなかったら、生命は、数個の散在した、短命の、ひどく複雑な化学物質の破片でしかなかっただろう。
大人の典型的な歩行速度は時速4.8キロ(秒速1.4メートル)。上限速度は時速10.8キロ(秒速3メートル)。これ以上は速く歩けない。競歩の世界記録は時速16キロ(秒速4.6メートル)。いま、トップの長距離走者は時速23キロ、アマチュア選手だと時速11~15キロ。
汗をかいて身体を冷却できるのは、人間のみ。ほとんどの哺乳類は汗をかかない。これは、毛皮に含まれている脂が水分の通過を妨げるから。
チンパンジーの身体は、頭のてっぺんから足のつま先まで、二足歩行するようにはまったくできていない。チンパンジーの身体構造は、樹上生活のための運動機能が、地上生活向けの運動機能よりも優先的に備わっている。長く力強い腕と手は、広げるとかなりの幅になり、最小限の筋力で、木の幹をしっかりとつかんでよじ登ることができる。
鳥類は、コウモリや翼竜と同じように、森林で飛び方を習得したのだ。地上起源説は誤っている。鳥は、その羽毛のおかげで飛行できるようになった。祖先である恐竜たちは、前適応として備えていた木登り能力、樹上性の祖先たちが好条件の森林に住み、たまたま滑空性を獲得する道が開けていた。そして、独特の羽毛ベースの原始的な構造のおかげで、羽ばたき飛行を手に入れた。
ハエトリグサは、植物が昆虫を食べる。ハエトリグサは、動物は動き、植物は動かない、というあたりまえの考えにショックを与える。ハエトリグサは、この法則の例外だ。
固着性動物は、どれも幼生のときは移動する能力がある。幼生たちは、ただ水中を漂うのではなく、推進力を起こして活発に動き回る必要がある。
植物のとった対策は、水中浮遊性の精子を空中浮遊性に変えることだった。
また、動物の身体に糊か面ファスナーのようなものでくっつけて種子を拡散させている。
生物の進化の過程を明らかにし、生物の移動の意義を深く掘り下げている本です。生命の神秘を深く実感することのできる本でもあります。
(2019年3月刊。2800円+税)

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