弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2019年12月20日

アメリカはなぜ戦争に負け続けたのか

アメリカ


(霧山昴)
著者 ハーラン・ウルマン 、 出版  中央公論新社

著者は1941年生まれで、アメリカ国防大学特別上級顧問、ヨーロッパ連合軍最高司令官管轄下の戦略諮問委員会のメンバーもつとめました。アメリカの海軍士官学校を卒業し、ベトナム戦争にも従軍していて、まさしく軍事専門家です。
冷戦が終結した1991年から現在までの26年間、あわせて19年にもわたって、アメリカは大がかりな武力衝突や武力介入に、つまり戦闘に従事してきた。
アメリカは、過去72年間のうち、その半分以上の37年間は戦争状態にあった。その戦績はそれほど目覚ましいものではない。朝鮮戦争は引き分けだった。ベトナム戦争は不面目な敗北に終わった。
この60年間で唯一明白な勝利と言えるのは1991年の第一次イラク戦争(湾岸戦争)だけ。
第二次湾岸戦争は、ブッシュ大統領が指揮をとったが、これは南北戦争以来最大の戦略的誤ちであった。この第二次湾岸戦争のあと、イスラル国(IS)の興隆につながり、現在もまだ戦闘が続いていて、収束の目途もたっていない。
ベトナム戦争の真最中、海軍基地での講義のなかで退役陸軍中佐がこう言った。
「神はすべての善良な人間を敵側に置いたのではないかと思うよ・・・」
いやあ、これはすごい言葉です。
こんな戦争にアメリカが、いかに超先進的な兵器を有していたとしても敗北するのは必至ですよね・・・。
ベトナム戦争のとき、北ベトナム軍の総指揮をとっていたボー・グェン・ザップ将軍は、アメリカ軍の至近距離の戦闘にもちこむよう指示した。アメリカ軍の優れた空軍力と兵器を無効にしようという作戦だ。
アメリカがベトナム戦争でみじめに敗北したのは、北ベトナムの持久力と国内の統一への意思と熱意を理解できなかったことによる。北は、負けないことで、勝利をつかもうとした。北の政府は、アメリカ軍よりも長く持ちこたえることが勝利への鍵だと理解していた。
敵の文化を知ることは成功の必須の条件だ。戦争においては、敵とその戦略をよく知らなければいけない。
ISとの闘いは、組織に対するものではなく、思想と運動に対する戦いであることを理解しなければならない。
ISは自爆テロを実行する子どもたちをリクルートすることで対応している。子ども兵士が武装組織に取り込まれることは、過去にもあった。常備軍を倒すより、思想と運動を混乱させ、破壊することのほうが、はるかに難しい。
戦後アメリカの「失敗」の主因は、あくまで最終的判断を下す大統領の資質にある。
アメリカのような戦争が大好きな国と平和憲法をもつ国が対等平等の関係であるはずもなく、アベ首相はいつだってトランプ大統領の舌先三寸で動かされてきました。嫌ですね・・・。
アメリカの戦争の敗北の本質を考えさせられる本です。
(2019年8月刊。3200円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー