弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2019年8月 1日

11通の手紙

中国


(霧山昴)
著者 及川 淳子 、 出版  小学館

1989年6月4日に想いを馳せて・・・。
あの日、君は、分厚い法律書を、肩にかけた布鞄にしまい込んだ。
「弁護士を目指す大学院生だから、条文はしっかり覚えているよ」
君の一番のお気に入りは、憲法35条だ。そこには「自由」が記されている。
「おかしいことは、おかしい」、「それは間違っている」、そう言いたいだけ。ぼくらの声に耳を傾けてほしい、ぼくらの声が届くようにしてほしい。何のために学ぶのかって・・・。決まっているじゃないか、困っている人を助けるためさ。だから、ぼくは弁護士になる。
そんな君が、ついに逮捕されて、弁護士に資格を奪われた。信じた道を歩むことが、いったい何の罪だというのか・・・。

あの日、君はカーキ色の軍服に身を包み、銃を抱えていた。君は人民の兵士だから、人民のために働くと、そう信じていたはずだ。
君も、君の仲間たちも、疑うことなどなかっただろう。
兵士は、軍の命令に従わなければならない。けれど、人は誰にでも、自分の心の声にしたがう「自由」がある。
君は、それを学ぶ機会がなかったのだと、「あの日」気がついただろうか・・・。

銃口を突きつけられたとき、言葉は無力かもしれない。
戦車の前に立ちはだかったとき、詩は無力かもしれない。
それでも、人は言葉で生きていくものだから、ぼくは言葉の力を信じていたい。
ぼくは、ここにいる。
ぼくは、ここで書き続ける。
ぼくは、ここで生きていく。
第二次天安門事件が起きたのは1989年6月4日。
2010年12月10日、中国の民主活動家である劉暁波にノーベル平和賞が授与されましたが、授賞式は本人不在のまま実施されました。
中国の民主化は、中国の人々の課題です。そして、日本人の私たちも日本の民主化をすすめるべき責任を負っています。ところが、現実には日本人の6割が投票所に行く自由が保障されているにもかかわらず、足を運びません。そのなかで、安倍一強の「独裁」政治が進行しています。どうせ私の一票で世の中なんか変わらないというあきらめ感が日本中を覆っています。そして、嫌中・嫌悪が大手を振ってマスコミをにぎわせ、まあ、仕方がないやね、悪いのは中国・韓国であって、日本はいつだって正しいことをしてきたんだから・・・。そんな偏見から目の覚めない日本人がいかに多いことでしょう・・・。残念でなりません。
尊敬する内田雅敏弁護士から贈呈していただきました。
(2019年5月刊。1200円+税)

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