弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2019年7月 5日

技術が変える戦争と平和

社会

(霧山昴)
著者 道下 徳成 、 出版  芙蓉書房出版

科学技術の発達が戦争の姿を変えている状況を知ることのできる本です。
インターネットの発達によって、前線にいる兵士と司令部にいる指揮官とのリアルタイム・映像つきの情報交換を可能にした。これによって、指令の伝達や状況把握は、より迅速かつ正確になされる。そして、それは前線の兵士が、司令部への報告そして司令部からの命令が大量となり、兵士は多忙をきわめることになった。
犠牲者回避が主目的化すると、軍隊全体に軍人としての職業倫理・士気の低下をもたらしかねない。
ドイツでは、2011年から志願制となったが、人材確保が以前より重要な課題となった。そして、軍隊に対する忠誠心の減退や離職者対策として、海外派遣中の兵士に対するストレス緩和についての支援が重要なものの一つとなった。たとえば、前線にいる兵士に対して家族からのメールは、自分は何もできないという不安や無力感を感じて、かえってストレスになる。そこで、デジタルが発達していても、昔ながらの絵葉書や小包を前線の兵士への送るということが、兵士と家族の双方にとって、ストレス緩和の効果が高い。
インドが得意とする技術は、ジェネリック医薬品のように、すでにニーズの定まった医薬品をよりコストの安い代替物で生産し、広く普及させる技術。たとえば、人質をとるテロリストを制圧する手段として、インド軍特殊部隊は、突入直前に発光手榴弾の代わりに、世界一辛いとうがらしをつかった手榴弾をつかう。これは値段が安いので、広く普及させることができる。
韓国は、2014年に、世界最大の武器輸入国であり、それはほとんどアメリカからの輸入で占められていた。F35戦闘機40機、グローバル・ホーク機4機、など・・・。しかし、対北脅威の対応としては過大装備ではないかという批判・反省もあらわれている。
北朝鮮は、資金不足のため、ほとんどの武器が旧式だが、戦略・訓練・企画・思考は現場にかなっている。
日本企業100社の上位10社の市場占有率は50%をこえている。そして、10社内に3社が上がった。トップの三菱重工(28位)、2位が川崎重工(18%)だった。日本企業の特徴は、防衛上の施設に対するニーズが低いことにある。
武器の製造に3Dプリンターが活用されている。アメリカ軍は、B52戦略爆撃機やC-5輸送機などの旧式航空機の補修部品の製造に3Dプリンターを利用したときのコストが問題となる。3Dプリンターは、まずまずの性能をおさめ、国内外の雇用の奪いあいを生んでいる。
科学・技術の発達は戦争のあり方も大きく変えていることがよく分かる本でした。
(2018年9月刊。2500円+税)

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