弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2019年4月 8日

牛たちの知られざる生活

(霧山昴)
著者 ロザムンド・ヤング 、 出版  アダチプレス

私も年齢(とし)をとって、若いころのように肉をたくさん食べたいとは思わなくなりました。先日も新キャベツを蒸したものをどっさり食べて、それだけで幸せな気分になりましたし、レンコン大好き、コンニャクも美味しいと思って食べています。
でも、それでも、たまには牛肉を食べたいと思います。いえ、部厚いステーキ肉ではありません。スキヤキのように野菜たっぷりと一緒に食べたいのです。
ところが、この本を読むと、牛も人間と同じように一頭一頭、性格が違っていて、家族愛が深い動物だということが分かり、そんな牛を美味しいといって食べていいものかと考えさせられます。
この本は、イギリスにある、自然な環境で動物を飼育する農場を営む女性による牛の飼育に日誌のようなものです。
牛乳を飲むと、どの牛から搾られたものか分かるという人たちが働いている農場です。
牛が広々とした場所で、餌を奪いあうことなく自由に歩きまわることが出来、なによりたくさんの年長者の牛がいる群れで暮らせたら、肺や腸の寄生虫に対する免疫は自然につくられる。
ここでは、母牛が自分の乳で子牛を育てる。子牛は、自分の気がすむまで母親と一緒に過ごす。最低でも9ヶ月は母親の乳を飲み、母親が次の出産の1~3ヶ月前に乳を出さなくなると、自然に乳離れしていく。
牛の母子関係は、人間と同じように千差万別だ。多くの場合、子牛は、生後わずか1日か2日で、ほかの子牛と友だち関係を築く。
牛の求めるものは、多くの点で人間と同じだ。ストレスのない環境・安心できる住まい、安全な食事がとれ、そして運動でも、散歩で、ぼうっと立っているのでも、したいようにできる行動の自由。
どんな動物でも、気心の知れた仲間と交流することが必要で、人間の都合ではなく、自分のペースでやりたいことをやりたいように楽しむ権利が認められるべきだ。
子牛が母牛を亡くすよりも、母牛が子牛を亡くしたときのほうが悲しみは、ずっと深い。
長年観察していると、牛たちは、まっとうな環境で暮らしていると、とてもよい判断を下すということが分かる。
互いに体を舐めあうのは、牛にとっては大切なコミュニケーションだ。
牛は、とてもきれい好きで、何らかの理由で体を清潔に保てないでいると、見るからにしょぼくれた様子になる。
牛には愛情がある。牛は生涯の友をつくる。牛は遊びを考案する。牛は人間とコミュニケーションをとれる。
牛は、ときに思慮深い。
さあ、そんな牛だと分かって、それでも食べられますか・・・。小さな声で、ハイ、と私は答えます。前に、日本人女性が3頭の豚を飼育して、大きくなって殺して食べた話を紹介しました。ありがたくいただきます。その精神(こころ)です。
それでも、牛のことを少しは知って大いに考えさせられました。
(2018年7月刊。1600円+税)

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