弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2019年1月15日

子育てがおもしろくなる話②

人間


(霧山昴)
著者 土佐 いく子 、 出版  日本機関紙出版センター

私と同じ団塊世代の著者は長く小学校で教員をしていました。その体験にもとづく話ですから読ませます。私は電車の中で一気に読みあげました。
学校は、子どもたちに生きていく希望を届けるところであってほしい。学校へ行けば賢くなれる。そして、「よく来たね」と声をかけてくれる教師がいて、「遊ぼう」と誘ってくれる友だちがいる。やっぱり人間って、あったかいなと人への信頼を届ける所であってほしい。
学校は安心の場、自分の居場所のあるところでありたいもの。ところが、現実にはピカピカの1年生ですら、笑わない子、目を合わさない子、抱かれない子、そして、「どうせ、オレ、アホやもん」、「生まれてこなかったら良かった」と吐き捨てるように言う子がいる。
子どもは、親の失敗談を聞くのが大好き。ほっとするからだ。明日もがんばってがんばって立派にしなければと追い込まれないから。ほっとすることで、今の自分でいいんだという安心感が生まれる。その安心が自分づくりを支えてくれる。そして、明日も生きていけるという元気や意欲をはぐくんでくれる。
子どもたちの友だちづきあいがうまくいかなくなったと言われているが、実は、大人たちの人間づきあいが下手になっている。
私の依頼者には中高年の一人暮らしの人がたくさんいます。それは男性も女性もです。その一人は新聞配達を仕事としています。「大変ですね、何時から仕事ですか?」と尋ねると、なんと夜中の1時半から5時まで配達しているそうです。頭が下がります。「睡眠時間は大丈夫ですか、ちゃんと休めてますか?」と重ねて問いかけると、そちらはどうやら大丈夫のようです。夜、人が寝ているときに働いて、昼間は寝ているという、昼と夜が逆転した生活を何年もしているとのこと。「なぜ、ですか?」その人は、人とあまり接したくないからだと答えました。60歳代の男性です。大きなモノづくりの工場で働いたこともあるそうですが、そんなところにいると息が詰まりそうで、早々に逃げ出したと語りました。
人づきあいを苦手とする人が前より増えた気がしてなりません。そして、スマホ万能社会は、ますます人を孤立化させるのではないでしょうか。
人が人とぶつかりあい、励ましあい、支えあってこそ人間です。この本を読みながら、その基礎づくりを子どものころにちゃんとしてほしいと思ったことでした。
(2015年11月刊。1524円+税)

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