弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2018年10月17日

弁護士、好きな仕事・経営のすすめ

司法


(霧山昴)
著者 北 周士 、 出版  第一法規

分野を絞っても経営を成り立たせる手法。これがサブタイトルの本です。つまり、この本は弁護士が「好きな仕事」を仕事にしつつ、事務所の経営も十分していこうというコンセプトで書かれています。
ふだんの業務でそれなりに稼ぎ、余力で好きな活動をする。これが伝統的な日本の弁護士の一般的やり方だった。
うむむ、そうかな・・・。我が身を振り返ってみると、「ふだんの業務」も「好きな活動」も、「地域に根ざして、さまざまな法的トラブルの適正・妥当な解決に資する」ということにあり、この両者はあまり対立・矛盾するものではありません。そして、私の場合、その活動を通じて人間の営みとは何か、いったい人間とはどういう存在なのかを掘り下げて考えるところに喜びを見出していますので、「ふだんの業務」が苦になることは、あまりありません。
もちろん、依頼者とうまくいく場合だけではありませんので、ストレスを感じることも少なくないのですが、弁護士生活45年になった私にとって最大のストレスは、理不尽な裁判官の言動・判決です。ぺらぺら「難解な」議論を口にして、実は勇気がなく、長いものに巻かれろ式の裁判官ばかりで絶望的になります。いえ、それでも、たまにきちんと当事者の主張に耳を傾け、適正・妥当な解決に尽力する裁判官にあたることもあり、まだそんなに捨てたものじゃないかと思い直すのです。
本書は、法律事務所の経営に関する本でもある。せっかく弁護士になったのだから、「好きな仕事」で食べていくことを、もっと皆が目ざしたらよい。
ふむふむ、なるほど、そうも言えるのか。果たして、みんな「好きな仕事」をもっているのかな、それが問題じゃないかしらん・・・。
カルト脱会者を扱う弁護士のセキュリティ面の注意は参考になりました。
自転車通勤なので、家に帰るルートは毎日変える。尾行を避けるため、自転車で一方通行を逆走するとか・・・。事務所は、警察官のパトロールの多い地域とし、カメラ付きインターホン。ドアはすべてICカードによるオートロック。事務局は顔をきちんと確認し、お茶替えを口実に、ときに面談中の会議室に様子を見に来てもらう。依頼者を信用しつつも、言い分をうのみにせず、確実に裏をとることを心がける。
ただし、この弁護士について絶対にマネしたくないことがありました。それは勤務時間です。朝は9時半から10時半のあいだに出勤。これはフツーです。ところが、夜はなんと深夜0時か1時まで仕事をしていて、たまに夜の11時に帰路につくと、「今日は早い」と感じるとのこと。いやはや、こればかりは絶対にご免こうむります。
福祉関係を専門分野にしている弁護士は、固定費削減を努力しつつ、逆に人と関わることを大切にするため、旅費・交際費は惜しまないといいます。いやあ、お見事です。
クレプトマニアを専門としている弁護士は、インターネットによって全国の事件を受任し、その他の弁護士と共同受任して対応しているとのこと。うん、これって、いいですよね。みんなウィン、ウィンの関係になりますよね。そして、弁護士報酬は、旧報酬基準の上限を最低限に設定しているとのこと。それだけの労力を1件あたりにかけるので、当然だといいますが、私も、その心意気を買います。
弁護士4万人の時代です。やはり、それなりに専門性を打ち出す必要があります。いつまでも、「田舎の雑貨屋」です、何でも対応できます、という時代ではありません。もう「田舎の雑貨屋」なんて、どこにもありません。そこにあるのは、コンビニなんです。そんな時代に対応して工夫し、苦労するしかないように思います。そのためのヒントが満載(たくさんあるという意味)の本です。
(2017年10月刊。1600円+税)

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