弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2018年7月21日

江戸の骨は語る

江戸時代

(霧山昴)
著者 篠田 謙一 、 出版  岩波書店

2014年7月、東京の「切支丹屋敷跡」から3件の人骨が発見された。
新井白石が尋問し、藤沢周平が『市塵』に描いた江戸時代の潜入宣教師シドッチの人骨ではないのか・・・。
この謎を解いていくスリリングな過程が生き生きと描かれていて、人体をめぐる科学の進歩・発達を実感させてくれます。結論を先取りすると、今のDNA鑑定は、人骨となった人物がイタリアの中部地域に居住していたというところまで特定できるのです。ですから、そこまで判明したら、当然のことながら、その人骨はイタリア人のシドッチだと特定されます。
徳川幕府によるキリスト教信者の弾圧が強まり、潜入・潜伏していた宣教師たちが、あるいは残酷に処刑され、また棄教(ころび)していった。それを知ったローマ教皇庁は、日本への宣教師の派遣をついに断念した。
シドッチは、切支丹屋敷に幽閉されたものの、年に銅25両3分と銀3匁(もんめ)ずつを支給され、拷問もなく過ごした。しかし、4年後の1713年に、シドッチの世話をしていた長助とはるという夫婦がシドッチにより洗礼を受けたと告白したため、3人とも屋敷内の地下牢に監禁されることになった。シドッチは、10ヶ月後の1714年に47歳で衰弱死した。
シドッチが切支丹屋敷内に埋葬されたというのは、キリスト教関係者の間では広く知られていた。そして、実際に、その切支丹屋敷内から3件の人骨が保存状態も良く発見されたのです。では、本当にシドッチたちか、どれがシドッチか・・・。その探索が始まります。
東京の地下は、土質が粘土質で、嫌気的な環境が保たれやすいので、人骨は残りやすい。九州では、地面の下から人骨が消失していくのに対して、関東では、地面にしみ込んだ雨水が人骨を溶かすので、上面にあたる部分から骨が消失していく。
古代人骨のDNA分析では、歯の内側の空所である歯髄腔の内側面を削り、内部の象牙質を用いることが多い。
古代の人骨のなかで、最もDNAをふくむのは、頭骨の内耳の周辺の骨。人骨中に残るDNAの保存に関しては、水は大敵。酸性に傾いた日本の土壌では、しみこむ水も酸性を示し、骨中に残るDNAを破壊する。
DNA分析の技術の進展がこの人骨をイタリア人であると断定できるまで進んだタイミングで発掘されたことになる。
江戸時代の男性の平均身長は156センチ。ところが問題の人骨は身長が170センチをこえている。
シドッチの遺骨が発見されたのは、没後300年という節目(ふしめ)の年であり、2014年は日本とイタリア修交150周年でもあった。
すごいですね、人骨がイタリア人であることを確実に断定できるまでDNA分析ができるとは・・・。
(2018年4月刊。1500円+税)

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー