弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2018年7月 4日

漂流するトモダチ、アメリカの被ばく裁判

アメリカ


(霧山昴)
著者  田井中 雅人、エィミ・ツジモト 、 出版  朝日新聞出版

3・11大震災のとき、アメリカ軍がトモダチ作戦を展開していたことは知っていました。アメリカ軍が大震災を利用して、それを口実に軍事演習を展開していたと考えていました。
ところが、たとえば原子力空母ロナルド・レーガンの乗組員5000人が大量の放射能を浴びて、その結果、多くの兵士たちが白血病などにかかって苦しんでいるというのです。そして、彼らは裁判に訴えます。その原告は400人以上にのぼります。
トモダチ作戦で、アメリカ軍と自衛隊は、過去に例のない規模で「共同作戦」を実施し、「日米同盟の絆」を盛んにアピールした。
原告らは東京電力を被告として、アメリカのカリフォルニア州サンディエゴの連邦地裁に提訴した。損害賠償として1000万ドル、懲罰的賠償として3000万ドル、医療費をまかなうための1億ドルの基金の設立。これを原告らは求めている。
空母レーガンは、攻撃海域で、何度も放射性プルーム(帯状の雲)に包まれた。熱い空風が吹き抜け、口の中にアルミホイルをなめたような感触だった。甲板にいた乗組員は、やがて皮膚が焼けるように熱くなって、ヒリヒリした。そして、頭痛に襲われた。
空母は艦載機が発着するため、常に外気にさらされている。これに対して、駆逐艦はカプセルのようなもので、圧力調整された艦内には外気が入ってこない。巨大な換気フィルターは、放射性物質をしゃ断するので、放射能による汚染の心配はない。
その空母レーガンには5000人もの乗組員がいて、「浮かぶ都市」のようなものだ。警察もあれば、刑務所もある。空母レーガンの艦長は指揮官として、「水が汚染している恐れがある。飲むな」と全乗組員に指示した。3日目のこと。
レーガンの航海日誌によれば、3月16日夜から翌17日朝にかけて、5時間ほどプルームに入っていた。症状としては、全身に「はっしん」し、しこりを感じる、頻脈などなど・・・。
東電側は、法廷で次のように明言した。
被告東電は、たとば放射性物質の放出は認めるが、その放射量はきわめて微量。
トモダチ作戦に従事した7万人もの兵士から、300人から400人の被害者が出たという情報が著者にもたらされた。
トモダチ作戦によるアメリカ軍兵士たちの被害回復を目ざす裁判にも注目しようと思いました。。
(2017年10月刊。1600円+税)

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