弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2018年6月26日

弁護士50年、次世代への遺言状(下)

司法

(霧山昴)
著者 藤原 充子 、 出版  高知新聞総合印刷

高知弁護士会初の女性会長(1985年)であり、人権分野での目ざましい活動に挺進してきた著者が自分の扱った裁判のなかから特筆すべきものを紹介しています。前にこのコーナーで紹介した本に続く、下巻です。
私は、司法の堕落とも言えると思った白ろう病裁判での高松高裁判決をまずは紹介したいと思います。まさに血も涙もない判決の典型です。
高知営林局管内でチェーンソーを使用していて白ろう病となった林業労働者が国を訴えた事件です。一審の下村幸男裁判長は現場検証で自らチェーンソーを操作したとのことで、写真が紹介されています。そして、白ろう病は国の責任だ、労働者の安全配慮義務を怠ったとして、1億円余の支払を国に命じたのです。ところが、高松高裁(菊池博・瀧口功・渡辺貢)は、この一審判決を取り消し、請求棄却としました。その理由がひどいのです。
「機械を数年にわたって使用したあとに発症した重症でない職業病について直ちに企業者に債務不履行責任があるとしたら、長期的にみれば機械文明の発達による人間生活の便利さの向上を阻み、わが国のように各種の機械による産業の発展で生活せねばならぬ国においては、国民生活の維持向上に逆行するもので、合理的ではない」
「経年により進行増悪しても、医学上説明できないことで、それらは私傷病や加齢によるものとみるほかない」
もちろん、この判決には上告したのですが、最高裁は上告棄却。しかし、奥野久之裁判官だけは国の安全配慮義務違反を認めました。
ただし、その後、白ろう者の職業病認定を求める行政訴訟では勝訴しています。これで少しばかり救われました。
スモン訴訟や中国残留孤児国賠訴訟についても裁判所のあり方について、著者はいろいろ問題提起していますが、共感するところ大です。裁判所は、もっと弱者に対して温かい目をもって法論理を展開すべきだと思いますし、あるときには、求められた必要な勇気をふるい起こすべきなのです。
この点、今も弱者に冷たく、権力に弱い裁判官があまりに多い現実に、直面して、弁護士生活45年になろうとする私は、たまに絶望感に襲われます。でも、決して絶望はしていません。話せば分かる裁判官もまだまだ少なくないからです。
それにしても、1968年(私が大学2年生のころです)に著者が高知弁護士会に入会したとき、手土産をもって弁護士会の長老に挨拶まわりをしなければいけなかったとか、料亭へ全会員を招待(費用は新人弁護士が半分もち)しなければいけなかったなど、まったく信じられない話も紹介されていて、びっくり仰天です。
著者の今後ますますのご健勝を心より祈念しています。
(2018年5月刊。1389円+税)

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