弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2018年6月 1日

TOEIC亡国論

社会

(霧山昴)
著者 猪浦 道夫 、 出版  集英社新書

かなりインパクトのある刺激的なタイトルのついた本ですが、読んでみると、ごくまっとうな英語教育論が展開されていて、大変参考になります。
私は英語はあきらめてフランス語一本でやっていますが、その理由の一つは英語の発音が私の耳にはあまりに聞きとれないことです。よほどフランス語のほうが聞きとりやすいのです。この本は英語が日本人に聞きとりにくい理由もちゃんと指摘していますので、私だけじゃないことを知って安心しました。
英語が聞きとれないという人は、文法や語法を知らない、単語力がない、会話の背景にある文化的バッググラウンドについての知識がない、それだけのこと。
日本に住んでいて、周囲が日本語で話している環境のなかで「日本語脳」を捨てて「英語脳」を獲得するなんて、まず不可能。
TOEICは、コツを覚えれば、誰でもある程度の点数がとれる。英語の本当の実力を測るには適当ではない。TOEICは、コツに習熟すると、実力以上のハイスコアがとれる。問題を解くのに複雑な思考を要求しないので、対策さえすれば、ある程度の点数はとれる。
TOEICは、年に何回も受けることができるので、お金のある人が有利。
海外では通用しないので、海外で何かしたい人にとってはムダな努力になってしまう。
TOEICは、作文能力をテストしていると言いながら、現実には、語彙(ごい)クイズ、語法クイズでしかならない。
TOEICは、日本人のためにつくられた試験。TOEICをつくったのは、通産省と経団連であり、英語ビジネスの既得権益を確保しようとしているだけのこと。
大学生に求められる英語能力とは、原書をきちんと読解する能力である。
日本人向けの英語力検定試験を早急に開発すべきだ。
ALTには資格が必要ない。ALTひとりに年間600万円もの予算がついている。英語が母国語だといっても、誰もが英語を教えられるわけではない。
語学の学習に必要なものは、お金と時間の二つ。語学の学習のための三種の神器は、良い辞書、良い参考書、良い教師だ。
いつまでも英語が身につかないという人は、英文を文法的に正確に書けず、語い力が不足しているのが根本的な原因だ。
発音はネイティブに習うより、音声学にもとづいた科学的な発音指導のできる日本人の先生から訓練を受けるのが非常に効果的。
大変よく分かりました。
(2018年3月刊。740円+税)

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