弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2018年5月 5日

松本清張「隠蔽と暴露」の作家

社会


(霧山昴)
著者 高橋 敏夫 、 出版  集英社新書

松本清張が死んだのは1992年8月なので、もう25年以上がたっている。しかし、その書いたものは今もそのまま通用している。何回となくテレビドラマ化されている文庫本がたくさん出ている。
松本清張は無類のカメラ好きで、旅行には何台化のカメラを携帯していた。そして、英会話ができて、海外では通訳なしで取材していた。さらに、考古学にも深い関心を寄せていて、日本古代史の知識は学者と対等に議論できるレベルだった。
清張の学歴は尋常高等小学校の卒業というだけ。ところが、そのあくなき勉強のおかげで、並の知識人は足元に近づけないほどのレベルに達したのです。やはり、勉強する人こそ強いと言えます。
そして、松本清張はプロレタリア文学仲間と交流していたことから、戦前、警察に検挙・勾留され、拷問も受けています。山村多喜二の虐殺のころです。そして、兵隊にとられ、衛生兵として朝鮮に送られました。
このように苦しい生活を過ごしたわけですが、父親は陽気で政治や歴史にやたら詳しく、母親は優しく、心配性だけど、へそくりして着物をつくってくれた。そのため、貧しいなかにも人間としての豊かな感性を失うことはなかったのですね。
ただ、上の学校に行けなかった清張は、「オレ、オマエ」でつきあえる友だちはいませんでした。それを大いに残念がっていたようです。私は、その点は大いに共感します。高校や大学で学ぶことの利点は、同じレベルの友人と出会い、世の中や社会のことを、心おきなく語りあえることです。それは、私にとっては、大学時代のセツルメントサークルのなかで得ることができました。これが私の原点であり、今も心の支えになっています。
松本清張の『黒地の絵』(1958年)は、朝鮮戦争まっさいちゅうの北九州で起きたアメリカ兵の集団脱走事件を素材にしています。全編、不気味な太鼓の音が鳴り響いています。黒人兵から妻を暴行された男が復讐するという暗い話です。一度よんだら忘れることができません。
そして、松本清張の得意分野のひとつが政財界を結んだ大々的な汚職事件です。小役人が追いつめられて自殺するというのは、モリトモ事件でも不幸なことに起きてしまいました。でも、下っ端はオドオド、ビクビクしているのに一番悪いやつが高笑いして、ぐっすり眠っているなんて、絶対におかしいです。清張は、そこに鋭く切り込んでいきます。
北九州にある松本清張記念館にまた行ってみたくなりました。まだ行ったことのない人は、ぜひとも行ってみてください。
(2018年1月刊。760円+税)

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