弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2018年4月22日

ルポ・川崎

社会

(霧山昴)
著者 磯部 淳 、 出版  サイゾー

私は大学生のころに川崎に住んでいました。セツルメントに入ってすぐ、川崎区桜本に住んでいた先輩セツラーの下宿に行きました。そこは、今でいうコリアン・タウンでした。いわゆる下町とも、ちょっと違った雰囲気だと感じました。そこで、セツルメントの学生集団(セツラーたち)が子ども会活動をしていたのです。とても、大変な活動だと分かって、勇気のない私は中部の労働者住宅街(幸区古市場)の若者サークルに入りました。
そして、弁護士になって川崎区にある法律事務所で活動するようになりました。しかし、弁護士としては、川崎区の地域問題というより、労働災害や労働運動にかかわることが多く、ほとんどコリアン・タウンに関わることはありませんでした。
いま、ヘイト・スピーチをすすめる差別主義者の集団は川崎区をターゲットにしています。彼らは諸民族が平和共存するのを許さないというのです。なんという愚かな言動でしょうか、信じられません。金子みすずの詩ではありませんが、みんな違って、みんないい、この精神に立たなければ世界と日本の平和はありえません。オレが一番という、トランプやアベ流の発想では戦争を招いてしまいます。「核」の時代に戦争だなんて、とんでもないことです。
この本は現代の川崎市川崎区の実情に足を踏み込んでレポートしています。
川崎区は、暴力団がいまもって深く根を張っている。性風俗の店と暴力団は、残念ながら、昔から切っても切れない関係にあります。
この川崎区にもアベノミクス効果は、まったく及んでいません。アベ首相の眼は、タワーマンションに住むような東京の超富裕層にしか向いていませんので、当然のことです。
暴力団予備軍が次々と再生産している現実があります。親が子どもをかまわない。放任された子どもは仲間とともに非行に走っていくのがあたりまえ・・・。寒々とした状況が明らかにされています。
私が40年前、川崎にいたころに既にあった、マンモス団地の河原町団地は今もあるようです。当然のことながら、その住人の高齢化はすすみ、デイケアの送迎車が目立ちます。
在日コリアンの集住地域だった川崎区桜本にもフィリピン人が転入してきている。仲間、家、仕事。この3点セットを求めて移動してきたのだ。今ではそれに加えて、南アメリカの人々もいる。
川崎区のひどい環境から抜け出すには、ヤクザになるか、職人になるか、はたまた警察に捕まるしかなかった。最近は、これにラッパーになるという選択肢が加わっている。
ヘイト・スピーチをしている人たちも、過去に差別されたり冷遇されたりして、自分を大切に扱われてこなかったという寂しい生育環境のもとで大人になったと思います。気の毒な人たちです。でも、かといって、他人まで、自分が味わったと同じ、みじめな境遇を味わせようなんて、心があまりにも狭すぎます。もっと大らかに、くったくなく、一度だけの人生を楽しみたいものです。川崎区の現実を断面として切り取った迫真のルポルタージュでした。
(2018年3月刊。1600円+税)

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