弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2018年3月29日

子どもの貧困対策と教育支援

社会

(霧山昴)
著者 末 昌 芽 、 出版  明石書房

いい本です。学校教育に関心のある人には、ぜひぜひ読んで欲しいと思いました。
日本の学校現場はいま大変なことになっていると思います。子どもの貧困の多くは親の貧困から来ています。また、親に経済力があっても子どもを大切にしているとは限りません。子どもたちが愛されている、大切にされていると感じられること、家庭に居場所がると実感できること、それが必要ですし、大切です。
では、家庭にそれが欠けていたり、不十分だったとき、学校は何もしなくていいのか・・・。
大阪の高校には昼休みと放課後に開く校内カフェがあるそうです。いいことですよね。21の高校にあります。非行、メンタルやフィジカルな障害、不登校、経済弱者など、困難をかかえる生徒の多い高校のようですが、困難をかかえる生徒の居場所が高校内にあるって、すばらしいことです。家でも学校でもない居場所、サードプレイスがあるのは大切です。ゲームセンターではダメなのです。
ヨーロッパでは、幼稚園や小・中学校にコミュニティ・カフェがあるのも珍しくない。保護者や地域の人々が利用している。
生活保護を受けている家庭の子どもたちの学習支援もいい試みだと思います。しかし、子どもたちは、ここに来てるって言ってないし、言いたくないのです。生活保護をうけていることを恥と考えるような子ども社会があるからです。
簡易宿泊所(ドヤ)がたくさんある地区をかかえる小学校では、子どもたちを労働福祉センターに見学に連れていきました。子どもたちは、困ったときには福祉で支えてもらう場所があることをしっかり学んだようです。今の日本では必要な知識です。
そして、漠然と怖いように思っていた地区が、そこに住む外国人から外国にある怖い町と比べたら、まったく怖くないと聞かされたら、むしろ自分たちのまちを好きになったとのこと。いい経験です。
50年前、私が大学に入ったとき、国立大学の学費(授業料)は月1000円、年1万2000円でした。ちなみに、家賃も同額(もちろん食費は別です)。ところが、今では国立大学は50万円、私立大学は文系100万円、理系150万円、専門学校は70万円です。とんでもないことです。しかも、奨学金が有利子の貸与制です。私も月3000円の奨学金を受けていて、弁護士になって返済しました。月5000円の給付型奨学金は適用を受けられなかったのです。昔の育英会は、今では学生支援機構と名称を変えていますが、利用者は134万人と多いのです。給付型奨学金を大幅に拡充する必要があると思うのですが、世論調査の結果は必ずしも支持していないというのに驚きます。ここでも「自己責任」の論理が幅をきかしているのでしょう。困ったことです。
この本は、日本の学校は、基本的に排除の文化を生成する仕組みを有していると指摘しています。この指摘は重要です。大人社会の反映でもあると思います。
日本の学校には、子どものかかえる問題や困難を見えにくくし、いつのまにか、困難をかかえる子どもたちを排除してしまう文化や仕組みがある。
学校そしてクラス内で、人と人とのかかわりにおける温かさはや安心感、相互支援、居心地の良さが必要。この学級適応感の高まりが学習意欲の向上に結びつく。子どもの学級適応感を高めるのは、被受容感であり、それは教員の受容的、共感的態度によって高められる。
380頁もの密度の濃い論文等をテンコ盛りした労作です。その割には2600円と、少々割高ですが、明るい将来展望を少しだけでも、その光を見出すことができました。学校の先生方、これからも無理なく楽しくやってください。

(2017年11月刊。2600円+税)

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