弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2018年2月12日

あるフィルムの背景

社会


(霧山昴)
著者  結城 昌治 、 出版  ちくま文庫

昭和時代の傑作ミステリ短編が復刊された文庫本です。よく出来ていて、思わず唸ってしまいました。
少女のとき、知り合いの青年についていったら、まさかの強姦被害にあった女性が、そのトラウマから男性恐怖症どころか人間不信となり、社会適応すらできなくなって、職を転々として生きていった。そして、あるとき加害者の男性が婚約者らしき女性と楽しそうに旅行しているのを見かけ、忘れかけていた過去を思い出し、我を忘れて・・・。切ないストーリーです。
DV夫から長年にわたっていたぶられてきた妻。夫が右半身不随になったとき、妻は恐るべき報復に出た。
私も実際に似たようなケースで妻の刑事弁護人になったことがあります。若いころに散々妻に対して暴力をふるっていた夫が老齢になって半ばボケかかってきたとき、娘とともに抵抗できない夫を殴りつけて重傷を負わせたというケースでした。その供述調書を読みながら、もっと早く別れておくべきでしたよね、子どもたちが可哀想だと思ったものでした。子どものために辛抱したなんて、子どもは言ってほしくないのです。
「あるフィルムの背景」は、検察官の妻がブルーフィルムに登場してくる女性そっくりなところから、容疑者たちを追求し、ついに真相を突きとめたときには妻は自殺していたという、なんともやるせないストーリーです。
読んでいて元気が出てくる話ではありませんが、なるほどこんな心理状態になっていくのだろうなと共感させられるところの多い話でした。
少々ネタバレ気味で申し訳ありませんでしたが、推理小説ファンには見逃せない傑作ぞろいです。
(2017年12月刊。840円+税)

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